マネジメントに活かすコーチングの考え方

今回のテーマは「コーチングについてのおさらい」です。

個々人のみならず、組織の中でもその有効性を発揮しているコーチングですが、これをマネジメントにどう活用するべきか?
考え方を整理してみました。

~~ マネジメントにおけるコーチング技術について考える ~~

最近、フィードバックに関する書籍を読んでいたら、ビジネスの場でフィードバックが注目を集めている理由として、次のような背景が挙げられていました。

  1. 経験の浅い部下、あるいは年上の部下をどうマネジメントするかという悩み
  2. 組織における多様性(人材の背景や雇用形態の違い)
  3. ハラスメントと捉えられることへの恐れ
  4. コーチングを誤解し「気づき優先」に偏ったマネジメント
  5. 1on1ミーティングの普及

1〜3は、まさに現代のマネジメント現場で多くの管理職が直面している課題です。
部下に指示を出したり、反省を求めたりする際に言葉を間違えると、関係性を壊したり「ハラスメントではないか」と受け取られるリスクがある。
そこで、「フィードバック」というフレームを活用し、共通認識のもとでコミュニケーションをとることによって、リスクを最小化しつつ建設的なコミュニケーションを目指す動きが広がっているのです。

5.についても大きくうなずけます。1on1ミーティングは、部下との関係性を築く上でとても有効な仕組みです。

ただ、思わず苦笑してしまったのは4の「コーチングへの誤解」です。
私は常々、「コーチングのコンセプトをそのまま丸ごとマネジメントに当てはめるのは難しい」と説いてきましたし、同じ意見を持つコーチ仲間も多くいます。

それが正に、この様な形で表現されているのかな、と思った次第です。

~~ コーチングの原則とマネジメントの矛盾 ~~

ではなぜ、「コーチングの丸ごと導入」が難しいのか?

私が根拠とするのは、コーチングの基本原則に含まれる次の二点です。

  1. コーチとクライアントは完全に対等な関係にある
    しかし現実のマネジメントでは、上司と部下という立場の違いが必ず存在します。
    もちろん人間としては完全に対等です。しかし、役割と負っている責任が異なるので、上下関係、力関係が生まれるのが組織というものです。
    評価や報酬に影響する力関係を完全に取り払うことはできません。
    そのため、上司、部下ともに100% 心を開いて、忌憚なく対話するという状況が生まれにくいのです。
  2. コーチは課題ではなく、人に向き合う
    課題に対峙するのは(コーチングを受ける)人。コーチは課題に向き合うのではなく、その人に向き合い、セッションを行います。
    コーチが、クライアントの職業や、仕事の専門性、業界に精通していなくてもセッションが成り立つのは、これが大きな理由です。
    業界知識や仕事の専門性について知識がある、クライアントを理解する上で有益なこともあれば、逆にコーチが先入観を持ってしまうリスクもありますので、一概に良し悪しは言えませんが。


上記の(1)はすぐにご理解頂けると思いますが、それ以上に注目すべきは(2)です。

本来のコーチングでは、課題解決よりも「クライアントの内面の成長」を重視します。
しかし、マネジメントの現場で「課題に向き合わない上司」はありえません。成果や業務遂行は組織の責任であり、課題と向き合うことを避けては通れません。

この矛盾を無視して、マネジメントを「気づき優先」のコーチングに置き換えてしまうと、「言うべきことを言わない上司」「頼りにならないリーダー」が生まれてしまう危険性があります。

上司に相談にいったら、「君はどう思う?」「それに取組むことは今の君の成長にどの様な価値を生むのだろう?」「この課題解決は君のキャリア形成にどの様な意味をもたらすだろう?」なんて質問ばかりされたら・・・どう感じますか?

もちろん、上司の立場として「どうしたらいいでしょう?」だけを持ち込む部下には自主性、主体性を持ってもらうための質問はすべきです。

「課題の重要性、緊急性をどの様に捉えているか?」「自分でどこまでやったか?」「これからどうしようとしているのか?」等々。
しかし、課題に対して一緒に考え、ティーチング、アドバイス、コンサルティング、をしていくのが上司の役割であるはずです。

~~ コーチングは「万能」ではない ~~

ここで誤解して頂きたくないのは、マネジメントにおけるコーチングを否定しているわけではないということです。

私は、マネジメントにコーチング技術を取り入れることは極めて有効だと考えています。
ただし、それはあくまで「万能薬」ではなく、他の手法との組み合わせの中でこそ力を発揮するのです。

マネジメントに必要な対人支援スキルには、以下のようなものがあります。

  • ティーチング:知識やノウハウを教える
  • コンサルティング:状況を分析し解決策を提案する
  • アドバイス:経験に基づき方向性を示す
  • カウンセリング:心情を受け止める

そしてこれらに加えて、「コーチング」があるのです。
状況や相手によって、どの手法を組み合わせるかを見極めるのがマネジメントの力量だと考えます。

~~ コーチング技術の3つの実用形態 ~~

さらに誤解されやすいのは、「コーチング=気づきを促す質問」だけではないという点です。
コーチングの技術には、質問以外にも明確なスキルがあります。

  • 提案(Suggestion
    クライアントに選択肢を与えるように、部下に新しい視点や方法を示す。
    例:「こんなやり方もあるけれど、どう思う?」

  • リクエスト(Request
    明確に行動を求める。
    例:「次回の会議までに、この資料をまとめてください」

  • フィードバック(Feedback
    客観的な事実や観察に基づき、相手に気づきを与える。
    例:「今回の説明は要点が少し長くなっていました。短くするともっと伝わりやすいと、私は思います。」

つまり、コーチングにおいて、「問いかけ」だけではなく、提案・リクエスト・フィードバックといった形で相手の行動や考えを引き出すこともできるのです。

上記3つを実行するにあたり、コーチングセッションにおいては、「私から(提案/リクエスト/フィードバック)していいですか?」とクライアントに許可をもとめることがルールになっています。

これを、上司、部下の関係で行うには妙に他人行儀に思えるかもしれませんが、「ちょっとフィードバックさせてくれ」とか、「これは私からの提案だけど・・・」とか、「私からのリクエストとして考えてみて欲しいのだけど・・・」という枕言葉を加えれば、部下も心を開いて受けとめる余地が生まれる効果があります。

いきなり、「それはどうかな?こう考えてみなかったのか?」とか、「その考えは無理があると思うよ。」とか、「ちょっと甘いんじゃないか?」とか、「私の経験ではさぁ」とか、で切り込むより、気持ち的に会話は建設的な方向へ向かうことでしょう。

言ってる意図は同じでも、「話していてストレスの無い上司」になれますね。

~~ マネジメントに活かすためのヒント ~~

マネジメントにおいてコーチングをどう活かすか。そのヒントをまとめると次の通りです。

  1. 状況に応じて役割を切り替える
    部下が知識不足ならティーチング、解決策に迷っているならコンサルティング、内省が必要ならコーチング、というように、状況に合わせて柔軟に対応する。
  2. 「人」と「課題」の両方に向き合う
    成果を出すことと、部下の成長を支えることは両輪です。どちらかに偏らないようにする。
  3. フィードバック文化を育てる
    相手を萎縮させない形で、率直に事実を伝える習慣を作る。これが心理的安全性を支えます。
  4. コーチング技術を「適所で活用」する
    万能なフレームワークとしてではなく、会話の質を高めるための技術として取り入れる。

コーチングはすばらしいコミュニケーション技術ですが、マネジメントにおいてはそれだけに依存することはできません。
上下関係や課題解決といった現実を踏まえつつ、ティーチングやアドバイス、フィードバックと組み合わせて活用することが大切です。

「気づき優先」に偏るのではなく、「必要なときに、必要な支援スタイルを選ぶ」

それが、マネジメントにおけるコーチング技術の正しい活かし方だと考えます。

今日のお話はここまです。

最後までお読み頂きありがとうございます。

株式会社ドリームパイプライン 代表取締役   1980年、新卒で日本NCR株式会社にてキャリアをスタートし、以来一貫して外資系IT企業に勤務。   営業、営業企画、マーケティング、製品開発、製品管理、市場開発、米国本社勤務、事業部長、等の領域でマネジメント職を経験。   2001年、日本NCRを退職後、米国、ドイツ等を本社とする大手IT企業数社の日本法人にて要職を歴任。    2013年より、組織の人材育成、組織活性化のためにコーチングを学び始め、プロフェッショナルコーチ認定資格を取得。修得したコーチングスキルを多様な価値観が求められる外資系IT企業におけるマネジメントに活用しながら(社)日本スポーツコーチング協会の認定コーチとして、高校、大学のスポーツ指導者へのコーチング活動を実施。   2015年から、米国のスタートアップ企業の2社の日本代表を歴任し2021年12月退任。人材育成支援を目的とし、株式会社ドリームパイプライン設立。 著書 『ニッポンIT株式会社』   https://www.amazon.co.jp/dp/B09SGXYHQ5/    Amazon Kindle本 3部門で売上一位獲得    「実践経営・リーダーシップ」部門、「ビジネスコミュニケーション」部門、「職場文化」部門

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