コーチングに欠かせない「質問」については、過去にブログで
何回も取り上げましたが、コーチがどの様な目的で
質問を作っているのか?準備しているのか?
おさらいも含めて、お話ししたいと思います。

~~ 唐突感が否めないコーチングの質問 ~~

クライアントとの会話、つまりコーチングセッションにおいて
コーチがやっている主な行為は、「承認」「傾聴」「質問」です。
こられた全体の時間に占める割合は大きくなります。
「極論すれば、コーチがやっているのはこの3つだけ」と
仰るベテランコーチもいらっしゃるくらいです。

実際は、コーチからの「フィードバック」「提案」「リクエスト」なども
あるのですが、あながち間違いではないと思います。
また、マネジメントの場において、「コーチングの技術」として
活用しやすいのも、この3つと言えます。

しかし、プロのコーチがする質問は 日常的に行う質問に比べて
少し特殊である。言い換えれば 唐突な印象を与える質問が
多いということは 以前ブログにも書きました。

では、プロコーチはどの様に質問を作っているのか?
思い付きや行き当たりばったりではありません。
この点について もう少し分かりやすく説明しようと思います。

~~ プロコーチの「質問」の作り方 ~~

日常行われる質問というのは、質問者が何かを知りたい、
何かを確認したい、あるいは会話を膨らませたい、という理由で
発せられます。

ですから テーマが決まっていますし、その答えを受けて質問者は、
理解、納得、共感、同意、コメントなどで反応し、時には笑い、
時には不愉快さの感情も生まれたりします。
また、新たな質問をすることもあるでしょう。
そして会話が進んでいく、広がっていく。
これが日常会話における質問です。

しかし コーチングにおける質問は、少々異なります。
まず、質問の目的が
「自分が知りたいこと」や、「アドバイスの前振り」
ではありません。相手(クライアント)に考えてもらうための問いです。
相手に考えてもらう、ことは別の言い方をすると、
相手に新たな「視点」が生まれること、相手の「視点」が動くことです。
「気づき」とも言えますね。

こうした「気づき」を生み出す効果を狙っているのが、コーチの質問です。
ですから、コーチのひきだしに納められている質問の数々、いわゆる
「質問集」は、この目的に沿ってよく考えられて作られているのです。

特にコーチングを始めたばかりで経験の浅いコーチは、この予め
用意した質問を一字一句変えることなく、そのままの形でクライアントに
問うことが推奨されます。

何故でしょうか?

それは、質問の意図は同じでも、無意識のうちに相手の話の内容を
汲み取って、質問をアレンジしてしまう危険があるからです。
質問の中にコーチ自身が入ってしまう、つまり相手と同じ視点を持って
しまうと、続く質問の中に自分の考えが入ってしまう。
自分が思いついたアイデアへ相手を誘導しがちになるということです。

コーチ側のスキルが十分で、クライアントとの距離を適正に保ち、
コーチとしての立ち位置を常に補正していくだけの経験があればよい
のですが、そうではなく、
自分がクライアントと同じ視点に立って「良いと思う質問」をし、
「期待通りの答え」に同意しているだけでは、クライアントの視点は
動きません。

そこで、コーチが質問集を使う時の基本は、
どの様な答えが返ってきても、「そうですか」とニッコリ笑って
次の質問に移ります。次の質問で、さらにクライアントに考えて
もらうわけです。
クライアントの答えを引き取って話題を膨らまそうとはしません。

冷たいようですが、視点を変えることを目的としている最中の
コーチはクライアントに寄り添ってはいないのですね。

~~ 目的に沿って作られた質問の例 ~~

コーチが自分の質問の中に入れてしまった(クライアントと
同じ視点をもった)場合と、コーチングの質問の基本に沿った場合を
比較してみましょう。

【例1:日常的な質問、回答、会話】

《クライアント》
プロジェクトの状況が、納期、予算の両面で思わしくなく、
最近はその解決に向けて仕事がかなりハードになっています。
そのため、部下とのコミュニケーションの時間が十分にとれていません。

《コーチ役》
プロジェクトの進捗が思わしくないのですね。
それは大変ですね。
この状況を上司に相談してみましたか?

《クライアント》
上司に相談はしてみましたが、特効薬的な解決方法もなくて。
予算オーバーは到底受入れられませんが、スケジュールの変更は、
上司から役員へ根回しを始めてもらうことになっています。

《コーチ役》
それが上手くいけば、少し気持ちも楽になるでしょうね。
部下とのコミュニケーションをとるゆとりも出てくるのでは?
ちなみに、予算面やスケジュール面で再度問題が起きそうな心配は
ありますか?

・・・ ここまでにしましょう。

次はコーチングセッションでの質問例です。

【例2:クライアントの視点を変える目的で行われる質問】

《クライアント》
プロジェクトの状況が、納期、予算の両面で思わしくなく、
最近はその解決に向けて仕事がかなりハードになっています。
そのため、部下とのコミュニケーションの時間が十分にとれていません。

これに対し、《コーチ》がする質問は以下の様なものになると思います。

  1. 部下とのコミュニケーションの時間は、あなたにとってどのくらい重要ですか?
  2. 過去、この様なプロジェクトの難局に遭遇した経験はありますか?
  3. その時の難局を乗り切るのに使ったリソース(人、情報、交渉相手など)は
    何ですか?
  4. 仕事がかなりハードになっている、とは具体的にどの様な状況ですか?

いかがでしょうか?

  1. は優先順位の視点。
  2. は時間軸の視点。
  3. は経験の振り返り。
  4. は、客観的に自分を見る視点

をクライアントに気づかせるための目的の質問と言えます。
このクライアントは、プロジェクトの進捗が思わしくないため
気持ちが落ち着かないので、部下との会話も身が入らないのかも
しれません。しかし、コーチはそれすらも先入観をもちません。
例1のコーチ役が、クライアントと一緒に「課題」に向き合って
しまい、一緒に「課題解決をしたい」という視点を持ってしまって
いるのと対象的です。

・プロジェクトが予算面、スケジュール面での状況が悪いということは
事実でしょうが、それに向き合っている自分は、にっちもさっちも
行かない窮状なのか?
・今なら、手を打っておけることがいくつかあるのではないか?
・過去に協力を仰いだ社内リソースがあったはず。
・部下との1on1ミーティングは、時間帯を変えて、今より
小分けにすれば無理なく開催できるかも。

等々・・・ 視点を変え、気づきが生まれます。

~~ とはいえ、この質問だけが有効なのか? ~~

以上の例で、コーチングにおける目的に沿って作られた質問が、
どの様なものかお分かり頂けたと思います。
しかし、組織運営、日々の仕事にあたって、この様な質問だけでは
人は動かないし、チームのパフォーマンスも上がるとは限りません。

純粋にコーチングとして〇かもしれませんが、
マネジメントとしては△でしょう。

部下と一緒に課題に向き合い、一緒に解決していこうという態度、
アドバイス、励まし、叱咤、確認、指示、など、相手と同じ視点を持って
日常的な質問も入れて会話を進めていく必要があります。
純粋なコーチングセッションが有効に働くか否かは、状況次第
ということです。

但し、「承認」「傾聴」「質問」「フィードバック」などの
コーチング技術をコミュニケーションに織り交ぜていくことを
日々心がけていけば、部下の主体性を喚起し、良い関係性を
つくることに役立つことは間違いありません。

「コーチング」と「コーチング技術」を分けて考える、というのが持論です。

今日のお話しはここまでです。
最後までお読みいただきありがとうございます。

株式会社ドリームパイプライン 代表取締役   1980年、新卒で日本NCR株式会社にてキャリアをスタートし、以来一貫して外資系IT企業に勤務。   営業、営業企画、マーケティング、製品開発、製品管理、市場開発、米国本社勤務、事業部長、等の領域でマネジメント職を経験。   2001年、日本NCRを退職後、米国、ドイツ等を本社とする大手IT企業数社の日本法人にて要職を歴任。    2013年より、組織の人材育成、組織活性化のためにコーチングを学び始め、プロフェッショナルコーチ認定資格を取得。修得したコーチングスキルを多様な価値観が求められる外資系IT企業におけるマネジメントに活用しながら(社)日本スポーツコーチング協会の認定コーチとして、高校、大学のスポーツ指導者へのコーチング活動を実施。   2015年から、米国のスタートアップ企業の2社の日本代表を歴任し2021年12月退任。人材育成支援を目的とし、株式会社ドリームパイプライン設立。 著書 『ニッポンIT株式会社』   https://www.amazon.co.jp/dp/B09SGXYHQ5/    Amazon Kindle本 3部門で売上一位獲得    「実践経営・リーダーシップ」部門、「ビジネスコミュニケーション」部門、「職場文化」部門

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