心を震わせる言葉の力 「ペップトーク」とは?
さて、今回はテーマを変えて「言葉の力」について、ペップトークのご紹介を通じてお話を進めます。
ペップトーク? なんですか、それ?と思った方も少なくないと思います。
米国のスポーツ界を発祥とするこのコミュケーションスキル、大きな効果が実証されています。
関心を寄せて頂ければ幸いです。
~~ ペップトークって何? ~~
皆さんは誰かに「言葉で元気づけられた」経験が少なからずあると思います。
ペップトーク(Pep Talk)は、まさにその「人を元気にする言葉がけ」です。語源は「pep=元気・活気」と「talk=話す」を組み合わせた言葉で、発祥はアメリカのスポーツ現場です。
アメリカのスポーツ、特にプロスポーツ界が生み出すお金は莫大で、4大プロスポーツが生み出す金額は、
NFL(アメリカンフットボール) 約230億ドル(約3.3兆円)
MLB(野球) 約121億ドル(約1.8兆円)
NBA(バスケットボール) 約120億ドル(約1.7兆円)
NHL(アイスホッケー) 約 66億ドル (約1.0兆円)
と、合計で約7.8兆円にのぼります。(2024年~2025年 年間収益 145円/ドル換算 )
こうした世界で、選手が最高のプレーのために、身体を鍛え、技を磨くように、指導者は言葉の力を磨くことが強く求められているからです。
試合前のロッカールームで、監督やキャプテンが選手たちを鼓舞するスピーチが、ペップトークの原点です。海外ドラマや映画で目にしたこともあるのではないかと思います。
たとえば2019年、ラグビーワールドカップ日本大会一次リーグ。世界ランキング1位のアイルランド戦を前に、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチが試合に向かう選手たちを前にこう語りました。
「誰も我々が勝つと思っていない。
誰も接戦になるとすら思っていない。
誰も君たちがどれだけ努力してきたかを知らない。
誰も君たちがどれだけの犠牲を払ってきたのか知らない。
君たちは準備が出来ていることを知っている。
私たちはやるべきことはわかっている。
自分を信じて、お互いを信じて、ワンチームで戦おう!」
この試合で日本代表は 19-12 で勝利し、世界に衝撃を与えるのです。
また、2023年WBC決勝前、大谷翔平選手の言葉も印象的でした。
「憧れるのをやめましょう。
ファーストにゴールドシュッミトがいたりとか、センターを見たら、マイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか。野球をやっていれば、誰しもが聞いたことのあるような選手たちがいると思うんですけど、
今日一日だけは憧れてしまったら越えられないんで。
僕らは今日、越えるために、トップになるために来たので。
今日一日だけは、彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう。
さぁ、いこう!」
これらは、まさにペップトークの実践例です。短く、わかりやすく、そして心を動かす。
言葉の力が人を変え、チームを動かす瞬間です。
指導者は、スポーツの監督、コーチとは限りません。
言葉の力を身に着けることは、管理職、職場リーダー、チームキャプテン、親、保護者、など進めべき方向を示し、人を導く立場にあるひと全てに必要です。
どの様な言葉を、どう使うか?考え抜くのが指導者の役割である。というのがペップトークの考え方です。
~~ なぜ、ペップトークが求められるのか? ~~
スポーツの現場から生まれたペップトークですが、ビジネス、教育、家庭などあらゆる場面で活用が進んでいます。
その理由はシンプルです。言葉のもつ「力」には、人を傷つけるものも、元気にするもありますが、指導者が、後者の力を使う必要がある場面がとても多くなっている、ということです。
言葉の力は使い方次第で恐ろしいものになります。
例えば、何かと話題になる「パワハラ」ですが、厚生労働省のホームページには、ハラスメントの類型と種類としてい6つがあげられていますが、それらは、
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大は要求
- 過小な要求
- 個の侵害
です。
そして、考えてみれば最初の「身体的な攻撃」以外の5種は言葉によって生まれています。
それほど「言葉の力」がもたらす影響は強く、使い方で毒にも薬にもなるということです。
「なんでできないんだ」「全然ダメだな」という言葉は、相手のやる気を削ぎます。一方で、「君がいてくれて助かった」「チャレンジしたことがすごい!」という言葉は、相手に勇気を与えます。
従業員エンゲージメントの維持や、多様性の尊重が求められる昨今、相手に勇気、モチベーション、エネルギーを与える様な言葉選びが、間違いなく必要になってきているのです。
ペップトークは、ただ優しい言葉や、「頑張れ!」と声をかける技術ではありません。相手の現状を受けとめたうえで、ポジティブな方向へ視点を移動し、前向きな行動へ導く励ましていく構造を伴ったコミュケーション方法です。
~~ ペップトークが活きる場面 ~~
アメリカのスポーツ界に由来するペップトークですが、私たちの日常に活かせる場面がたくさんあります。
【職場で】
– 部下が大事なプレゼンを控えて緊張しているとき
– チームが失敗から立ち直ろうとしているとき
– 新人が不安な表情で仕事に臨んでいるとき
【学校で】
– 生徒が試験前に不安になっているとき
– 運動会や発表会の直前
– 先生がクラス全体を鼓舞したいとき
【家庭で】
– 子どもが挑戦しようとしているとき
– パートナーが落ち込んでいるとき
– 自分自身がくじけそうなとき
ペップトークは、「その人が一歩踏み出す勇気を持てるように」するための言葉。
だからこそ、どんな人間関係にも応用できるのです。
~~ ゴールペップトークの4ステップ ~~
ペップトークの典型として、大事なイベントを前に人をやる気にさせる言葉がけ、「ゴールペップトーク」をご紹介しましょう。
ペップトークはチーム力の強化につながる差別化要素にもなることから、その「言葉の技」がロッカールームから出て世間に伝わることはあまり多くありません。ですので、その構造を分析して体系化するのは容易なことではありません。
しかし、このコミュケーション技術を紐解いて再現性の高いものにすれば、様々な場面で多くの人が使えるものになります。
日本ペップトーク普及協会は、1,000本以上のスポーツ映画、ドラマも分析、参考にし、特に本番直前などに有効な「ゴールペップトーク」の構造を以下の様にまとめました。
次の4ステップで構成されています。
- 受容(事実の受け入れ)
相手の不安・緊張・葛藤などの感情を否定したり、むりやりポジティブな思考を強要せずに、「緊張するよね」「不安になるのも無理ないよ」と、先ずは一旦受け止める。
これは、ゴールペップトークの特徴です。
単に「頑張れ!」「緊張するな!」「出来るよ!」「大丈夫!」という声掛けは、当事者にとっては、「そう言われても、自分は緊張しているのだし、不安だし・・・」と、気楽な外野の声としか聞けず、心に響きづらいことがあります。
一旦、相手の感情、置かれている状況に共感を示し、不安感で一杯な心の器の中に、応援の言葉が入ってくるだけのスペース(ゆとり)を作ってあげることが第一、という考えです。 - 承認(とらえかた変換)
次に、緊張、不安、気がかり、欠点、等のマイナスの要因に別の見方をすることで、物事の捉え方をポジティブに変換し前向きな心の状態をつくります。
例えば、
(状況)対戦相手が強豪 ⇒ 実力を証明するチャンス
(感情)緊張している ⇒ 真剣に準備してきた本気の証拠
(人の印象)聴衆が皆怖い顔 ⇒ 真面目に聴いてくれる人たち
等々・・・物事のとらえかたを変え、言葉を変えていくことで、気分が変わり、やる気を引き出すことができます。
「事実はひとつ、解釈は無数」。とらえかた次第で見える世界が変わってきます。
コーチングの立場で言えば、「視点を動かしてあげること」に通じますね。
また、準備不足(足りなかった)を不安がるよりも、今までやってきたこと、出来たこと、既にもっているリソース(仲間、経験、知識、長所、強味、など)は沢山あるはずです。ペップトークでは「あるもの承認」と呼んでいますが、自分で気づかないリソースに目を向けることもやる気を引き出す要因になります。 - 行動(してほしい変換)
「してほしい変換」とは、成功のイメージを描くために「〜しよう」という言葉をかけることです。
私たちはつい、「〜しないでね」と言いがちですが、人の潜在意識は否定語を判断しません。
「失敗するな」も「失敗しよう」も、どちらの言葉からも「失敗」という言葉からイメージを作り上げます。そしてそのイメージが行動に影響を与えます。
ゴルフをする方は経験していませんか?「右に池がありますから、あの方向には打ち込まない様に」・・・
とアドバイスを受けると、脳は見事に「右側の池」をイメージし意識します。結果はご想像の通り。
同様に、これから何かにチャレンジするときに、「ミスするなよ」「ミスしないでね」「ミスしたらあかんぞ」と言われたらどんな気持ちになるでしょう?
ミスをイメージして「ミスしたらどうしよう・・」となるかもしれません。
それよりも、「思いっきりやろう」、「確実に決めていこう」、「リラックスして、いつものようにやろう」という言い方にしたほうが相手のやる気を引き出すことができます。
この様に「してほしい行動」を、具体的で前向きな言葉で表すことで、成功のイメージを描くことができます。シンプルな言葉の変換ですが、とてもパワフルです。 - 激励(背中のひと押し)
相手のやる気を引き出し、成功のイメージを描いたところで、最後は「あなたなら(私たちなら)できる!この時間を楽しもう!相手を驚かせてやろう!自分らしく楽しんできて!存分に暴れてこい!・・・等々、
前向きな言葉で背中をポンと押して本番に送り出します。これが背中のひと押し=激励です。
ゴールペップトークでは、前向きな言葉をこの様な手順で使い、相手の持っている力を最大限に引き出します。

例えば、こんな状況でゴールペップトークが有効です。
サッカー決勝戦前に
- 受容〜事実の受け入れ〜「いよいよ決勝戦、相手は全国大会の常連校」
- 承認〜とらえかた変換〜「私たちの強さを証明するチャンスだ!」
- 行動〜してほしい変換〜「がっちり守ってワンチャンスをものにしよう」
- 激励〜背中のひとおし〜「さあ、思いっきり暴れれてこい!」
新入社員研修の最終日イベント、「役員へのプレゼン演習」を前に
- 受容〜事実の受け入れ〜「明日は研修のメインイベント、役員プレゼンテーション。緊張して当然だよなぁ。」
- 承認〜とらえかた変換〜「緊張しているのは、真剣に取り組んだ証拠だ」
- 行動〜してほしい変換〜「仲間と楽しんだリハーサルどおりに、落ち着いて進めよう」
- 激励〜背中のひとおし〜「今年の新人は凄いな!と、役員連中を驚かせてこい」
以上、ペップトークの目的や仕組みについて、概要をご紹介しました。
いかがでしょうか?
まだ、ご紹介すべき大切なポイントがありますので、次回もペップトークのテーマでお話を続けたいと思います。
今日のお話はここまでです。
最後までお読み頂きありがとうございます。