「さん付け運動」に思うこと

先週は同窓会やコミュニティーの会合で、大勢の人と
交流する立食パーティーの機会が複数あったのですが、
「先輩」や「社長」などの呼称が飛び交う中で、改めて
「人の呼び方」について考えてみました。

~~ 呼称で関係性がわかる日本人のコミュニケーション ~~

ずいぶん昔のことですが、噺家の立川志の輔師匠が、枕話で、
「日本語というのは、自分や相手の呼び方で即時にその関係性を
分からせることができる。
落語はこのおかげで、人物の立ち位置を明らかにすることができる。
つまりキャラクター描写ができるのだ」と話されていました。

例えば、
「拙者、その方(ほう)、おぬし、そこもと、そなた」等を使えば
侍のキャラクターが明らかになるし、
「おれ、おめぇ、かかあ、坊主」などを使えば町民の役柄、
「おいら、あたい」となれば子供の役柄、いう具合に・・・。
一方、英語は I とYouしかない、と師匠の話は続きます。

なるほど、確かに。

落語の世界は別として、
私達は、自分や相手への呼称を状況や関係性を判断して
使い分ける術を大人になる過程で身につけています。

それに加えて「敬語」というものがあるので、日本人の
コミュニケーションにおける呼称は世界でも類をみない
多様性に富んでいると思います。

~~ 「さん付け運動」と「関係性の距離感」 ~~

敬語については、日本文化の一部なので、これは
正しく使い、後世に継承していくものだと私は思います。

但し、間違った敬語、例えば許可を得る表現である
「させて頂く」などの乱用、誤用などは頂けません・・。
「ご説明させて頂きたいと思います」ではなくて、
「ご説明いたします」で充分な敬語なのになぁ、
何故そんなに許可を求めるのかなぁ、と日頃思うことが
多いです。

一方、呼称の方はある程度まで、状況に応じて変えていく
ことも大事ではないかと思います。

相手が社長でもファーストネームで呼ぶ米国でも、
DoctorとかProfessorとか、専門的領域での権威には
敬意を払って姓の前に職位を表することもありますし、
フランス、中国、スペイン語圏でも役職や地位による
呼称はあるそうですが、日本は少々ややこしい感があります。

先ず、リーダー、主任、係長、課長、部長、事業部長、等々
職位の名称がやたら多いです。これに「次~」「副~」「~代理」とか
が付くと、さすがに口頭では使わずとも、書簡やメールでは、
正しい表記が求められます。

私も若いころ職場で、次長、副部長、部長代理の3人の
序列に混乱し、社内メール(当時は手書き)での表記順に
戸惑った経験があります。

そして、コミュニケーションをシンプルでオープンなものにする狙いとして、
呼称を「~さん」へ統一するという、「さん付け運動」があります。
奨励している企業も少なくありません。

上司への~さん呼称に限らず、部下に対しても呼び捨て
せず、性別で「男性=君」「女性=さん」と区別することも
せず、すべて敬意をもって「さん」呼称とする、
合理的な考えだと思います。

ところが、この「さん付け運動」も、方針として宣言したりすると、
必ずしも全面的に受け入れられるわけではないようです

人によっては、今まで〇〇部長、と呼んでいた上司に向かって
〇〇さん、と呼ぶのは相当な勇気が要ることで、それが
プレッシャーになって憂鬱になる社員も現れるという話を聞きます。
「会社の方針で『さん付け運動』が進められているじゃないか!
うちのチームから率先垂範してやっていこう!」と上司から強制されたり
すればなおさらです。
いわゆる「心理的安全性」が侵されているということですね。

私の様に図々しい人間には起こり得ないことですが、
この気持ちは少しわかる様な気もします。
つまり「~さん」によって、相手との距離感を縮めたくない
という心理です。役職で呼ぶことによって
「あなたは課長、私は平。その関係性で充分です。」
ということではないでしょうか。

しかし、「距離感を縮める」ということでは、最近導入が盛んな
1on1ミーティングでは重要です。
では1on1ミーティングは「さん付け運動」が定着していないと
上手くいかないのか?というと必ずしもそうではないと思います。

1on1ミーティングで大事なことは部下が「心理的安全性」の
下で会話ができることですから、「課長のお考えはどうですか?」
の様に役職で呼んだ方が気持ちが楽なのであれば、それで
充分だと思います。

「今は1on1ミーティングなんだからね。〇〇さんでいいよ。」
と言われても、呼びかけがぎこちなくなったり、考えてしまっては、
意味がありません。

~~ 何を目的にするのか? ~~

組織には新たなルールが発生します。
コンプライアンスの徹底、セキュリティポリシーの遵守、
ハラスメントの防止、など・・
直ちに従わなくてはならない「決め事」です。

それに比べれば「さん付け運動」という方針は、上述の様に
根付くのに少々時間がかかるかもしれません。

組織に方針を定着させるには、その目的を皆が
理解する必要があります。
方針が形骸化しないためです。
そして組織のリーダーはその目的を明確に伝える
責任があると思うのです。

「さん付け運動」の目的は、私が思うには、
上下関係、性別によって生じ易い無用な遠慮、
躊躇、忖度、タテマエを失くし、新しい発想、
スピーディーな意思決定を生み出すこと、
ではないかと思います。

〇〇部長、○○課長と呼んでいた方が自然だし、
楽だし・・と、思われるかもしれませんが、
「自然である、楽である」というのは、人や組織に
根強く存在する「恒常性」への欲求、
つまり変化を嫌う気持ちそのものです。

インターンシップで学生さんを職場に迎える機会が
あるかもしれません。学生時代には無かった職位の呼称で
(〇〇教授はあったかもしれませんが)〇〇課長、
〇〇部長と呼び合っている会社のカルチャーを
どう思うか?

中途入社の方も、以前の職場で「さん付け」が
普通であれば大きな違和感を感じるでしょう。

現在、役職名で呼び合っていることが心地よい、自然だ、
というカルチャーの組織で働いでいらっしゃるなら、
「呼称」という、放っておいてもよい様に思える話ですが、
「緊急」ではないが「大切」なこととして、考えておくべき
テーマだと思うのです。

今日のお話はここまでです。
最後までお読みいただきありがとうございます。

株式会社ドリームパイプライン 代表取締役   1980年、新卒で日本NCR株式会社にてキャリアをスタートし、以来一貫して外資系IT企業に勤務。   営業、営業企画、マーケティング、製品開発、製品管理、市場開発、米国本社勤務、事業部長、等の領域でマネジメント職を経験。   2001年、日本NCRを退職後、米国、ドイツ等を本社とする大手IT企業数社の日本法人にて要職を歴任。    2013年より、組織の人材育成、組織活性化のためにコーチングを学び始め、プロフェッショナルコーチ認定資格を取得。修得したコーチングスキルを多様な価値観が求められる外資系IT企業におけるマネジメントに活用しながら(社)日本スポーツコーチング協会の認定コーチとして、高校、大学のスポーツ指導者へのコーチング活動を実施。   2015年から、米国のスタートアップ企業の2社の日本代表を歴任し2021年12月退任。人材育成支援を目的とし、株式会社ドリームパイプライン設立。 著書 『ニッポンIT株式会社』   https://www.amazon.co.jp/dp/B09SGXYHQ5/    Amazon Kindle本 3部門で売上一位獲得    「実践経営・リーダーシップ」部門、「ビジネスコミュニケーション」部門、「職場文化」部門

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