ダブル・ゴール・コーチング 「勝利がすべて」を超えて
さて、今週は、前回お話した「ミスの儀式」という言葉を知る
きっかけとなった、米国のPositive Coach Allianceについて
簡単にご紹介したいと思います。
スポーツ指導の世界のお話が中心となりますが、他の方々にも
ご参考になるかと思います。
~~ 「ダブル・ゴール・コーチング」という考え方 ~~
Positive Coaching Alliance(以下 PCA)のことを
知ったのは、昨年スポーツ指導者のための講演内容を模索して
いる間に出会った一冊の本、
『ジュニアスポーツコーチに知っておいてほしいこと』
大橋恵、藤後悦子、井梅由美子(著)2018年 勁草書房
でした。
教授の方々の執筆によるものなので、丁寧なリサーチと
参考論文、文献がしっかりしており、それらを元にして、ジュニアスポーツを
指導する上で大切なことが説得力を以て論じられています。
事例も多いので分かり易く、とても参考になった一冊でした。
その最後の章に、PCAに触れて、
「PCAとはスポーツをする子供へのポジティブな関わり方を学ぶ
教育プログラムの提供を中心とする非営利組織です。」と
紹介されていました。
早速、紹介されているURL(下記)からPCAのホームページを訪ねてみると、
https://positivecoach.org/
PCAの目的、活動報告、教育プログラムなどが豊富な
コンテンツで紹介されていました。
ここで紹介されているPCAの目指す、
「ダブル・ゴール・コーチング」という考え方は、
「子供たちの競技能力の向上」だけでなく、
「人としての内面の成長」という、2つのゴールをもって
スポーツ指導をしていこうというものです。
1998年に設立されて以来、
3,500以上の学校や青少年スポーツ団体と
パートナーシップを持ち、8万人以上の指導者に対して
2万回以上のワークショップや講習会を行い、
その指導者の下で指導を受けている子ども達は
2,000万人に及ぶ、とのことです。
トレーニングでは、6つのオンラインコースが
紹介されていたので、勉強のためと思って
DOUBLE-GOAL COACH
Coaching for Winning and Life Lessons
というコースを受講してみました。
($30の有料です)
オンラインコースによくある、スライドと音声で
レクチャーが進み、各章の最後で簡単な確認に
答えるというものですが、教材としてはよく出来ている、
という感想です。
~~ ジュニアスポーツ指導者のチャレンジ ~~
日本とアメリカでは、もちろん家庭環境、教育環境の違いは
あるのですが、子供が育つ上でスポーツはどの様な役割を
果たすべきか?という考え方には大きな差は無いと思います。
そして、「2つのゴールを持つことが大切」という考えは、
表現としては異なりますが、日本でも普及していると思います。
私が認定コーチをさせて頂いている、日本スポーツコーチング協会
では、ジュニアスポーツのみならず、学生、社会人、ナショナルチーム
までも対象ですが、基本講習では、
「達成目標と成長目標」のバランスをとることの重要性を説いていますし、
日本スポーツ協会(JSPO)が養成している
公認ジュニアスポーツ指導員のミッションは、
「スポーツを通して健康で文化的な生活を送り、生涯にわたって
豊かなスポーツライフを継続する礎を築くことができるよう、
ジュニア期の発育発達に応じた運動遊び・スポーツ指導を行える
専門家である」ことを謳っています。
また、先日私がビデオ研修の講師として登壇させて頂いた
「部活動指導者」の方々も、部活動を通じて生徒の
「学力・知識・技能」だけではなく、点数では表せない
非認知能力(社会情緒的スキル)の向上が求められています。
PCAの規模と活動には圧倒されますが、こうして
日本でも地道な活動を通じて、ジュニアスポーツ指導を適切な
方向へと向けていく努力は様々なところで続けられていると思います。
とはいえ、幼児から15歳くらいの青少年までを指導する
ジュニアスポーツ指導者にとってのチャレンジや悩みは、
心身ともに成長期にある
子ども達の考え方の変化への対応だと推測できます。
いつごろから「楽しい」という気持ちの中に「競う」という
気持ちが芽生えるのか?
「競う」ということは喧嘩とは違うものなのだという教え。
「誇り」や「恥」といった感情の芽生え。
小学生といっても低学年から高学年になれば、思考や感情は
大きな変化が起きますし、中学生になればなおさらです。
こうした子供たちを相手に、
「相手のチームより多く点をとればいいんだからね」
「〇〇ちゃんより速ければいいんだからね」
とだけ教えて済ませられたら、どんなに楽でしょう。
2つのゴールを持つ。
人生のゴールとは? 成長とは?
それを子供たちにわかるように言語化することは
大変な思考と努力が要ると思うのです。
これからのスポーツ界を支えると言っても過言ではない
ジュニアスポーツ指導者の方々をコーチングの立場から
支援するスポーツコーチングの使命も重要である
ことを改めて認識する次第です。
~~ 身近な教材としてのお奨め本 ~~
スポーツ指導者向けの書籍は数多く出版されていますが、
ジュニアスポーツとなると、対象は子供たちになり、しかも
対象に種目別になっていることが多い様です。
(少年サッカー、少年野球、指導マニュアル、上達方法など)
その中にあって、指導者や保護者に向けて総体的な
視点で書かれたのが冒頭でご紹介した
『ジュニアスポーツコーチに知っておいてほしいこと』
であり、これは良書です。
もうひとつお奨めしたいのは、PCAの創立者である
ジム・トンプソン氏による
『ダブル・ゴール・コーチ』 2021年 東洋館出版社
鈴木佑依子(訳)です。
全米で絶賛されたユーススポーツコーチンの教科書、と
謳われていますが、ユース(ジュニア~青少年)スポーツに
的が絞られていることが特長です。
そして、PCAの目指すものがエピソードと共に紹介されて
いますので、PCAサイトに行って英語のコンテンツと格闘する
ことなく、その考え方や実践を理解することができます。
原書は2003年に発行されたものですが、未だに劣化する
ことがない内容ですし、邦訳本が18年も経った一昨年に
出版されたのは、現在の日本のジュニアスポーツ指導者の
関心や課題感に今でも応えるものだという証かもしれません。
来年2月に2年を迎えるメルマガですが、意外なことに書籍の
紹介は今回が初めてだと思います。意図的に避けてきたわけでは
無いので、これからも良書に出会ったらご紹介していこうと
思います。
今日のお話はここまでです。
最後までお読みいただきありがとうございます。