人的資本経営とISO
人的資本経営をテーマにしながらも、「エンゲージメント」、「リスキリング」と、話は枝葉の方が先になってしまいましたが、今回は、おさらいも含めて
「そもそも、人的資本経営ってどういうことだっけ?」
「それって会社の規模を問わず考えるテーマなの?」
という観点で、これを定義しているISO 30414と併せてお話をしてみたいと思います。
~~ そもそもISO とは? ~~
熟知されている方も多いと思いますが、「そもそもISOとはなんぞや?」を簡単に説明いたします。
ISO(アイエスオー)は、国際標準化機構(International Organization for Standardization)という、世界中の基準を作るための国際機関で、スイスのジュネーブに本部があり、1947年に設立されています。
ISOの役割は、製品やサービス、システムに関する「共通のルールや基準」の作成です。これらの基準は、世界中の企業や組織が使えるもので、「品質の保証」「安全性の確保」「効率の向上」を目的としています。つまり、「世界中で同じ基準を使うことで、安心して取引や協力ができるようにすること」です。
身近にある例では、ISO 9001(品質管理に関する基準)、ISO 14001(環境管理に関する基準)は、よく目にするものですね。そして今回お話するISO 30414が「人的資本に関する情報開示の基準」となるわけです。
そして、ISOを取得してその基準を守っていると、会社や組織には以下の様なメリットがあります。
- 信頼性の向上
「この会社はルールに従い、一定の品質を保っている」と市場、社会から認められます。取引先や顧客からの信頼も高まりますね。 - 国際的な競争力
ISO基準は、世界中で通用します。特に輸出や外国企業との取引がある場合、ISO認証を持っていることで「世界標準を守っている会社」として認められ、選ばれる可能性が高くなります。 - 自組織の効率向上と改善
ISO基準を取り入れ、それに従って業務を進めていくと、仕事の進め方や仕組みが整理され、ムダが減っていきます。結果として品質向上やコスト削減につながるので、企業努力をしているという証になります。
「国際基準」などと聞くと、それは大企業のテーマで、中小企業にとって縁の無いものと思われるかもしれませんが、ISO基準に基づいて会社の運営体制を整えると、認証機関による審査を受けて「ISO認証」を取得して上述の様なメリットを生むことが可能です。企業規模の大小は関係ありません。
町工場でもその入口にISO認証を誇らしく掲げているところは沢山ありますね。
モノづくり、品質へのこだわり、安全な作業環境を旨とする日本の会社の象徴です。
そして、今度はその国際基準を「人の育成」「人的資本」に目を向けて欲しいということです。
~~ ISO 30414が示すガイドライン ~~
人的資本とは、社員一人ひとりが持つ知識、スキル、経験、そしてモチベーションなど、企業の価値を生み出すための「人」に関する資産のこと、であることは以前ご説明しました。
近年、投資家や顧客から「この会社は社員をどのように育て、活用しているのか?」という視点が重要視されるようになっています。つまり、「人を大切にしている会社が結果的に成長する」という、考え方が広まっているのです。
ISO 30414は、こうしたトレンドの中で、会社/組織は「人的資本」に関する情報をどのように開示すべきかを示す国際的なガイドラインです。
ガイドラインは以下の11項目になります。
- コンプライアンスと倫理
- コスト
- ダイバーシティ(多様性と公平性。男女比、年齢構成)
- リーダーシップ
- 組織文化
- 組織の健康・安全・福祉
- 生産性(一人あたりの生産性や付加価値)
- 採用・異動・離職
- スキルと能力(教育・研修のための時間やコスト)
- 後継者育成計画
- 労働力確保
これらの項目について、どのように測定し、報告するかの内容については割愛いたしますが、このガイドラインに沿ってISOを取得するには、しっかりした推進体制が必要になるでしょう。
CHRO(Chief Human Resources Officer:人事・人材戦略の責任者)の設置が必須とは言わないまでも、人事部や人事を担当する部門の中に、リーダーシップをとれる人やチームの存在(オーナーシップ)は欠かせません。中小企業の場合は社長自らが取組むこともあるでしょう。
~~ できるところから 人的資本経営に取組む ~~
ISOは取得することにも価値はありますが、そのガイドラインに沿って業務を遂行し続けることで、品質や、安全性や、事業の効率を上げていくことが本来の目的なので、ISO30414のガイドラインにあげられた各項目の意味を自社に照らして考えていくことが有効と考えます。
「うちは規模が小さいし、人もいないから、人的資本経営なんて無理無理!」と言う前に、先ずは上述のオーナーシップをもった人やチームが、できる項目から現状を把握し、理想形とのギャップを明らかにして共有することが大切です。
モノは在庫管理、棚卸など、カネはB/S、P/L、キャッシュフローなどで頻繁に細かくチェックしているのに、人については人件費と労務コスト程度にしか見ていないのであれば、その考えは改めるべきでしょう。
人という資本は最も重要ですが、最も扱いづらく、時間と手間がかかる面倒な経営資源ですから、従来とは異なる視座をもって取組んでみないと人的資本経営の効果はわからないと思います。
前述の11項目を見ても、殆どが非財務情報ですよね。
日本経済新聞 人材・教育ユニットと株式会社ワークス・ジャパンの共同調査による「人的資本経営調査」では、人的資本経営の推進にあたっての課題や悩みで、2024年版では「人的資本経営の投資効果が難しい」が第1位でしたが、これが2025年版では、第5位に下がっています。(ちなみに2025年版の第1位は「経営戦略を実現する人材の育成が難しい」)
取組んでみたら、その投資効果は実感できてきた、ということではないかと推察します。
ISO取得に何年もかかろうが、それに向けてガイドラインにひとつひとつ取組み、その進捗や成果をステークホルダーと共有していく過程で、会社が得られるものは大きいはずです。最初は、離職率や社員満足度調査結果、研修の実施数や受講率、資格保有者の数、など比較的簡単なデータ収集から始められると思います。
極端な言い方をすれば、ISO30414の取得は目的にしなくてもいいので、11項目のガイドラインを人的資本経営を考えるヒントとして、できるところから行動を起こすと考えてもいいでしょう。
人的資本に注目することは、企業のブランド力を高め、顧客・社員・投資家にとって魅力的な存在になる第一歩です。小さくても始めることで、大きな成果につながるものだと考えます。
今日のお話はここまでです。
お読みいただきありがとうございます。