当てる「もの差し」は適切ですか?
前回に続いて「スケーリング(scaling)」のお話です。
「程度言葉」ではなく、主観でもいいから「数値化」することの大切さについて説明いたしましたが、
今回は、その数値目盛りが打ってある「もの差し」自体について考えていきたいと思います。
~~ 適切な物差しを選択する ~~
前回は、スケールを使うことによって、部下の「成長」や「成果」や「課題」の現状理解から曖昧さを払拭することができる、というお話をしました。
「まあまあ」「そこそこ」「OK」「まだまだ」「世間並み」「ぼちぼち」「いまひとつ」等の、「程度言葉」ではなく、主観でもいいので数字化してみよう、ということです。
今回お話したいのでは、その数字をイメージしている「物差し」そのモノが正しく選択されているか?ということです。スケーリングの説明では、定規をイメージして、そこに打たれたメモリと数字を想像して頂きましたが、今回はそもそもどのような「物差し」を当てるのが適切なのか?を考えてみます。
普段私が行っているマネジメント研修では、「スケーリング」というテーマがあって、先ず適正な「物差し」を選ぶことから始めます。数値化はその後です。
これをブログで説明する時には、先ず数値化するということでスケーリングのイメージをつくって頂き、物差しの話はその後の方が理解し易いと思い、この順序にしました。
さて、「適正な物差し」、「物差しの種類」とはどういうものでしょう?
例えば、部屋の大きさを測る時に30cm定規は使いません。また小さじ何杯という調味料を計るのに、500mlの計量カップは使いません。要するに測るべき対象に最適な物差しが必要になるということです。
~~ 指示しているのは「仕事」か?「作業」か? ~~
そもそもスケーリングの目的は、部下の「成果」、「成長」、「課題」について現状を正しく理解することでした。これを曖昧にしていると、部下は何をどうすれば、事業の成果に貢献できるのか?自らを成長させられるのか?何を課題として取組めばよいのか? 暗中模索のまま仕事をすることになります。そして行っていることが「仕事」ならよいのですが、「作業」になってしまっている状況も起こり得ます。
上司も「仕事」を指示するより「作業」を指示しているケースが少なくないのです。
ここで「仕事」と「作業」について考えてみると、さらにこの上に、「責任」というものが存在することに気づきます。
・ 責任(Responsibility):立場上 負わなければならないもの。
(結果や全体の目標達成に対する最終的な義務、と言えます)
・ 仕事(Work/Job):責任を果たすためにやるべき具体的な業務やプロセス
・ 作業(Task) :仕事の中の個々の具体的な活動。(結果を出すこと)
という分け方ですね。
責任よりも仕事の方が上位の概念ではないか?という質問もよく受けます。先ず「仕事」があるからこそ、そこに「責任」が生まれるのだ、という考えにはある程度の合理性があります。
しかし、「責任」が上位の概念である理由は、責任が仕事に意味と方向性を与えるからに他なりません。責任を明確にすることで、目的と期待される成果が明確になり、仕事の優先順位や重要性が適切に設定されるからです。
管理職研修で、営業マネージャーの方々に「部下が役割を果たすために行うべき「仕事」のTOP-20」を書いて頂く演習があるのですが、このリストの内容が興味深いものになります。例えば、
- 営業トークを修得する
- 顧客への1日20本電話をかける
- プレゼン資料を作る
- 顧客情報のデータベースを常に更新する
などがリストの中に入ってきます。実はこれ、「作業」なんですね。
そこで「これは仕事ですか?作業ですか?」という問いで考えてもらうと、その上位にある仕事、すなわち責任を果たすために行う事こそが、「やるべきこと」と理解して頂けます。
上述の例では、⇒に書いたものが「仕事」と言えます。
- 営業トークを修得する ⇒ お客様に自社の製品/サービスの価値を正しく伝える
- 見込み客への1日20本電話をかける ⇒ 新規顧客を開拓する
- プレゼン資料を作る ⇒ セールスプロセスを効果的に前進させ続ける
- 既存顧客のデータベースを更新する ⇒ お客様との信頼関係を構築し続ける
2つ気が付くことがあると思います。
先ずひとつ目は、右側の仕事を遂行するための作業(方法)は沢山あるということです。
電話を20本かける代わりに、ダイレクトメールや、マーケティングツールを活用する手もあります。
プレゼン資料をつくるより、お客さんと課題についてのワークショップを開催するという手段もありだと思います。そして、それを行う部下の得意、不得意を考え合わせて、もっと強みを活かした行動(作業)を考えることができます。
二つ目は、左側の「作業」に物差しを当てて、部下の成果、成長、課題を明確にすることができるか?
ということです。事業目的の達成と、部下の成長という2つの責任をもつ上司として、チームリーダーとして、適切な組織オペレーションが可能か?という点です。
例えば、
「営業トークが上手くなったね。より上手くするには何が足りない?」
「1日20本の電話が苦にならなくなったね。では次は30本かけると、もっと成果が上がるかな?」
「データベースの更新をマメにやってるね。まだ埋められていない項目があるけど、それはどの様に情報を集めるのかな?」
という様に、部下と作業レベルの話をしていても、チームパフォーマンスや部下の成長にあまり有効ではないことは、イメージとしてわかると思います。
全ての作業指示が無益だという意味ではありません。それが必要な時はもちろんあります。
セールスキャンペーン期間に顧客との接触回数を目標と定めて、その達成度や改善案をレビューするなどが一例だと思います。
~~ 「仕事」を物差しにすることで、考える習慣が生まれる ~~
電話コール1日〇〇件、提案書作成1ヵ月に○○件、プレゼン実施1ヵ月に〇〇件、と「作業」レベルの方が数値化は簡単です。
一方、「仕事」レベルのことを物差しにすると、スケーリング、すなわち数値化が難しくなります。
結果的に仕事レベルの数値化は主観的になりますが、前回お話したように、それでも良いのです。
「まあまあです。」では漠然とした理解しかできませんし、その先の会話も進みませんが、「7です。」と数字をベースにした会話であれば、
「足りない3の原因はなんだろう?」
「いつまでに8にできるかな?」
という会話に発展します。
そして、「既存顧客のデータベースを更新する」ことから(これはこれで作業として大切なのですが)仕事として、「お客様との信頼関係を構築し続ける」に視点が移れば、他にどの様な方法があるか考えざるを得ません。
法人営業であれば、お客様の役職者と自分の上司とのパイプを作る。役員同士が顔合わせするイベントを考える。等々、作業のアイデアは広がります。
~~ 上司と部下の合意で完了するスケーリング ~~
ここでもうひとつ必要なことは、「やるべきこと(=仕事)」という物差しについての上司と部下の合意です。 上司が30cm定規もってきているのに、部下が巻き尺を持ち出しているという状況になってはいけません。
そのための一連の手順によってスケーリングがスタートするのですが、具体的には以下の様な流れになります。
1.「やるべき事 TOP-10」 を部下と上司がそれぞれ考えて持ちよります。
2.部下は自分のリストから(例えば)5つ優先度の高いものを選びます。
(こうして部下が「自分の仕事」について考えるというプロセスが大切です)
3.上司はそれに加えたいものあれば自分のリストから加えます。(やるべき仕事のリスト完成!)
4.それらを合わせたリスト(例えば8つ)から、部下が課題だと思うものを選ばせます。(例えば3つ)
5.部下は何故その3つが自分にとって課題なのか?を説明します。
6.部下と上司はその課題に取組むことを共通の目標とすることに合意します。(これが大事!)
7.部下は、課題について現状の評価点を付けます(スケーリング)。
そして、いつまでに何点に上げたいか?そのために何に取組むか?を上司と話合います。
8.部下は、上司に求めるサポートがあればそれを話し、合意します。
9.部下はこの課題に取組むことが自分の成長にとって、会社の成果にとってどの様な意味があるかを言語化します。
10.上司は部下が目標に向けて前進できるように、不安や迷い、疑問点を解決できるように、定期的なミーティング(10分~15分でもいいのです)について提案し、それを部下と合意します。
いかがでしょう?
作業レベルのことに「程度言葉」で応じていることより、遥かに時間も手間もかかりますが、部下の成果、成長、課題を、適切な物差しでスケーリングすることの大切さがご理解頂けると思います。
スケーリングの目指すゴールは、
・ より適切なスケール(物差し)をつくること。
・ 上司、部下が合意して前に進むこと。
・ そしてなによりも、部下が自分のやるべき仕事を自ら考え出せるようになること。
です。
今日のお話はここまでです。
最後までお読みいただきありがとうございました。