企業後継者の必須科目とは?

さて、今回から数回にわたって、企業の後継者が修得すべきスキルとして
「コミュニケーション能力」についてお話をしていこうと思います。

「今更コミュニケーション能力ですか?」と言われそうですね。

実は、昨年からこのテーマに特化したコンサルティングサービスを設計してきたのですが、
その過程で、後継者、特に中小企業の後継者候補や就任1~2年の新社長の方々が、
コミュニケーション能力を学ぶためにあまり時間をとれていないことがわかりました。

また、コミュニケーション能力が不足しているために、直ぐに経営の数字として顕在化されないものの、業績に対してボディブローの様に効いてくるという例も見聞きしました。

このテーマの重要性を認識すると同時に、このコンサルティングを展開することは、
弊社の「志(こころざし)」として掲げた「300年繁栄する続く人材育成を」の体現に繋がると実感した次第です。

~~ そもそも後継者を選ぶということは大きな課題 ~~

みなさん、この数字はご存知でしょうか?

日本の中小企業は、
社数において全企業数の99.7%(358万社)
従業員数において全従業者数の約70%(3,220万人)を占めています。
(2021年版 中小企業白書より)

日本の産業の根幹を支えているのは中小企業である、と言われる理由ですね。

一方、東京商工リサーチが発表した 2021年の解散企業数は44,377社。

その多くが中小企業であることは想像に難くありませんが、ちょっと驚いてしまうのは、
56.5%が黒字廃業なんですね。それでも2020年は60%を超えていたので、若干の減少傾向
と言えるそうです。

そして黒字廃業の大きな理由としては、

  • 資金繰りの悪化
  • 後継者の不在

が挙げられています。

そもそも、私がこの「後継者のコミュニケーション能力向上」がお役に立つコーチングサービスだと
考えるキッカケは、事業承継問題でした。
事業承継は、相続や税金に加え、後継者の存在が大きな課題です。お金もあり、従業員がいても、
会社を率いる後継者が不在であれば企業は存続していけません。

帝国データバンクが2021年に「後継者不在率」として調査した、
全国全業種 約266,000社のうち、61.5%の経営者が、
後継者について「いない」、あるいは「未定」と回答しています。

廃業を避ける道として、昨今M&A(Mergers and Acquisitions)すなわち合併や買収元を探すことが
注目されているのも頷けます。
後継者候補が自社や身内に見つからなければ、外部から招聘するのも一手段であり、M&Aを仲介する会社が、後継者のマッチングサイトを提供している例もあります。

~~ これだけ重要な課題であっても・・・ ~~

事業承継、後継者選びはこれだけ「重要な課題」なのですが、
多くの経営者にとっては「緊急の課題」ではないようです。
そして、「重要だが緊急でない」という課題は、コーチングのテーマの典型なのです。

この図はコーチングとは何か?を説明する際によく使われているものです。
一般的に人は(B)の領域の事柄に対しては放っておいても行動を起こし対応します。
コーチングの様に、クライアントとの対話によって気づきを導き、
行動を促すプロセスは(B)の領域へは基本的に有効ではありません。
重要かつ緊急な事柄に対しては、たとえ自分が対応せずとも、然るべき人からの的確なティーチングやアドバイス、例えば上司の叱咤などによって行動が促されることもありますね。
しかし、(A)の領域の事柄については、重要であることは認識していても、
行動を先送りにしがちです。

上述した事業承継や後継者の育成の他、
新規ビジネスの開拓
キャリアプラン
ライフ/ワークバランスの整え
健康維持、増進
家族行事の計画、
等々です。

これらを先送りし、放置しているうちに、(A)領域の事柄はある日突然(B)の領域に
「問題」や「課題」として出現することになります。
そうした事態を招かぬように、コーチはクライアントと一緒に重要な問題に対峙し、
行動を促しているわけです。

~~ もうひとつの後継者の課題 ~~

後継者不在は大きな課題ですが、たとえ後継者候補がいるケースでも、
経営者の気がかりは尽きません。
中小企業の経営者の方々から、コーチングの機会や、飲み会などでお話を伺うことが少なくありません。年配の経営者になれば、多かれ少なかれ事業承継の話題が出ますし、その中で他社の例も含めて後継者についての考えを打明けてくれることがあります。

上述の世間の状況に比べれば、後継者候補がいることはなによりですし、喜ばしいことです。
後継者候補がいるケースは多くの場合、息子さん、娘さん、娘婿、甥、姪、などのご親族が対象で、
会社を継いでくれる然るべき時がくるまでの準備、いわゆるロードマップを描いていることも伺えます。

例えば、

  • 他の会社に一旦就職して社会勉強をさせ、自分の会社にリターン就職させる。
  • 自分の会社に就職させて修行を積ませる。
  • 青年会議所(JC)への参加で知識の修得と経営者人脈の基盤をつくる。
  • 経営者養成講座を受講させる。

などです。

「いいですねー」「楽しみですね」「安心ですね」と言うと、本音と言える「気がかり」も開示してくれることがあります。それは、

「人をまとめていく力があるだろうか?」
「あいつを支えてくれる人がいるだろうか?」
という、少々大袈裟に言えば、人格、人望、性格に関することです。

もちろん、それらに十分な適正があると見込んだからこそ後継者候補なので、
杞憂であるかもしれません。
それでも、社長の気がかりも一理あると思うのは、

  • これだけ世の中が多様化し、価値観も大きく変わった状況下で、
    自分(社長)が理想としている企業リーダーの姿に固執した
    後継者選びになっていないか?
  • 自分(社長)の情熱と志を引継いで会社を成長させてくれるか?

という観点です。

前者の方は
「後継者だってちゃんと勉強してますよ。もはや昭和のリーダーシップが
通用するとは思っていないでしょう。」と応じられます。

一方、後者については正直なところ部外者にはわかりません。特に創業社長に多いですが、

裸一貫から苦労して事業を立上げ、その志や情熱に理屈抜きで
ついてきてくれた人たちに支えられて今があるという自負です。
正に「社長の人望」が為せる業で、これが、そう簡単に引継げるとは思えません。

実はこのような懸念を伺ううちに、後継者や新社長がコミュニケーションをもっと学ぶ必要性を感じたのです。しかも、コーチングの手法を使って実践的に。

すくなくとも上記の2つの気がかりは、正しいコミュニケーション能力を修得することで払拭できると考えています。

世間には経営者養成講座は沢山あります。
講座の内容をみると、もちろんリーダーシップや組織作り、人材育成といった対人影響力を磨くためのカリキュラムも含まれています。
しかし、コミュケーション能力は座学では修得が難しいものです。
コミュケーションはそもそも学校では教えてくれません。

子供の頃から、言葉遣い、礼儀、振る舞い、マナーの類は生活の中で親の躾けや学校で身につけていきます。
そして、コミュニケーションとなると、社会に出てから、リーダーシップ、叱り方、説得の仕方、交渉、自己主張の仕方(アサーティブネスなど)などを、お手本とする先輩や上司の姿を見たり、書籍や社内研修で学んでいきます。

では、こうして学んだ「あるべき姿」を自分の理想のコミュニケーションとしたら、日々実践しているコミュケーションは100点満点で何点でしょう?

私が講師を務めた研修で、この質問をすると、70点以上が参加者の一割いるかいないか。
半分以上の人が50点以下(ちょっと自己卑下が過ぎますね)と評します。
理屈はわかっているつもりだけど、自分なりに実践しみて率直なフィードバックを受けていないので、自信が持てないのですね。
このままだと、いつまでたっても我流のコミュニケーション、ひとりよがりのコミュケーションに
なりかねません。

これが、コーチング手法を使うことが効果的と考えた理由です。

~~ 後継者、新社長のコミュニケーション能力が会社に与える影響 ~~

コミュニケーションの良し悪しが組織パフォーマンスに影響を与えることは間違いありませんが、特に後継者、新社長のコミュニケーション能力不足を事業承継の観点でみると、以下の様なことへの影響が懸念されます。

1.マネジメントチーム内の関係性

家族経営、同族経営の場合、経営を率いるマネジメントチームが、
家族、親族で構成されることがありますが、その役割と関係性を透明かつ公平に整えておかないと、
親しさが逆に仇となるような組織内の不和や分裂が生まれたり、外部から有能な役員を招いても疎外感を感じさせて力を発揮してもらえない、などの弊害を生み出すことになりかねません。
先代社長の片腕と言われていた古参役員の非協力も実話として耳にした話です。

2.従業員の不満と離職率の上昇

後継者のコミュニケーション能力が不足していることが、リーダーシップの欠如として現れます。
上意下達は、シンプル、明確で、力強いものでなくてはなりません。
情熱をもって率先垂範して会社を引っ張っていきたいのに、管理職、従業員からは、
「ハードワークを強要されている」「会社の目指すところがわからない」
「経営陣だけが空回りしている」「仕事に充実感が湧かない」といった不信、不満から、
社員との適切な関係を築けず、離職率が上昇することがあります。
これは生産性の低下につながる負の要因となります。

3.ステークホルダー(利害関係者)との信頼関係

トップの交代によって「先代の社長はよく理解してくれたのに」と、長いお付き合いの
お客様からクレームが上がることが少なくありません。
後継者は先代の丸コピーではあり得ませんので、新しい経営方針、規範、価値観を
生み出すことを求められます。しかし、それによって顧客、仕入先、協業先、金融機関など
との信頼関係を劣化させてよいというわけではありません。
時には経営戦略として仕入れ先を絞ったり、顧客や金融機関へお願いをしなければならないケースも発生しますが、これもひとりよがりのコミュケーションでは禍根を残す結果となりかねません。

4.先代社長との関係性と企業文化

先代社長は第一線から退くとはいえ、それまでの業績を築いてきた尊敬すべき存在です。
そして後継者と共有すべき、自分の事業に対する深い思い入れをもっています。
事業を継承する新しいリーダーに積極的に変えて欲しい事と、守って欲しい事について、
先代社長と後継者は長い時間をかけて本音で対話し、納得し、合意しておかなくてはなりません。
良い企業文化を継承するために不可欠です。

ここまでのお話で、後継者や新社長にとって、コミュケーション能力がいかに大切か
ご理解頂けたと思います。

事業を承継するにあたって発生する諸問題が全てコミュケーション能力の不足が原因という
わけではありませんし、コミュケーション能力が万能薬であるわけでもありません。

しかし、実践的に修得し、時間をかけて、自分の個性を活かしたスタイルを築いていくもので
あるが故に、事業承継問題の一部として今から取組んでおくべき、
「重要だが緊急でない事柄」リストに最上位項目だと思うのです。

長くなりましたので、今日のお話はここまでといたします。
最後までお読み頂きありがとうございます。

今回は現社長の「気がかり」視点でお話しましたが、次回は後継者からの視点で
コミュニケーションのお話を続けてまいります。

株式会社ドリームパイプライン 代表取締役   1980年、新卒で日本NCR株式会社にてキャリアをスタートし、以来一貫して外資系IT企業に勤務。   営業、営業企画、マーケティング、製品開発、製品管理、市場開発、米国本社勤務、事業部長、等の領域でマネジメント職を経験。   2001年、日本NCRを退職後、米国、ドイツ等を本社とする大手IT企業数社の日本法人にて要職を歴任。    2013年より、組織の人材育成、組織活性化のためにコーチングを学び始め、プロフェッショナルコーチ認定資格を取得。修得したコーチングスキルを多様な価値観が求められる外資系IT企業におけるマネジメントに活用しながら(社)日本スポーツコーチング協会の認定コーチとして、高校、大学のスポーツ指導者へのコーチング活動を実施。   2015年から、米国のスタートアップ企業の2社の日本代表を歴任し2021年12月退任。人材育成支援を目的とし、株式会社ドリームパイプライン設立。 著書 『ニッポンIT株式会社』   https://www.amazon.co.jp/dp/B09SGXYHQ5/    Amazon Kindle本 3部門で売上一位獲得    「実践経営・リーダーシップ」部門、「ビジネスコミュニケーション」部門、「職場文化」部門

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