野球の監督采配にP/PCバランスの実践をみる
22日に閉幕した今年の甲子園大会は、未だ様々な制約が
残っていたにせよ3大会ぶりに観客を入れ、熱気溢れる
夏のドラマを見せてくれました。
それに触発されて、またまたP/PCバランスについての
お話です。
ブログでも過去2回とりあげましたが、今回は
野球の試合を通じてP/PCバランスの実例に触れて
みようと思います。
過去には、佐々木朗稀投手を引き合いにしましたが、
今回は高校野球と中日落合監督です。
(過去2つブログ内容と一部重複する点があることを
ご了承ください)
~~ P/PCバランスとは?(おさらい) ~~
P/PCバランスを何度も取り上げる理由は、
コーチングの中でも私が大切にしているコンセプトであり、
ビジネスの世界ではマネジメント、スポーツの世界では指導者との
コーチングセッションの際に引用することが少なくないからです。
おさらいすると、
Pとは、Production、つまり成果であり、達成目標
PCとは、Production Capabilityで、目標達成能力を意味し、
スティーブン・コヴィ博士の名著「7つの習慣」に由来します。
コヴィ博士は、PとPCのバランスがとれて初めて「効果的」なのだと
主張しています。
つまり、このバランスが崩れると、
例えばビジネスでは、会社が物凄い売上、利益を上げている(=P)
一方で、病んでいる社員が多い、コンプライアンス違反まがいの事も
起きている、等、社員の能力(=PC)が育っている環境には程遠い。
逆に社員は毎日楽しく仕事をし、仕事を通じて学び、個人個人の能力は
向上している一方で、会社の売上は落ち込み、毎月青息吐息。
例えばスポーツの世界では、全勝(=P)の少年サッカーチーム
であっても、ひとりのストライカーに頼っているために、
彼の膝は故障して、将来の選手生命が危ない。
一方、敢えて厳しい練習は避けて、楽しい練習環境でチームワークも
良いのだが、一向に勝てないチーム。成果(=P)が出せない。
という状態に陥るわけです。
~~ ゴールに向かう過程で得られるもの ~~
コーチングセッションで引用する理由は、
Pをゴール、
PCをその過程で得られる能力やベネフィット(恩恵)
と位置付けて、
クライアントに新しい視点を持って頂くことが有益なケースがあるからです。
ゴールの達成は100%約束されたものではありません。
本人がいかに努力しようとも達成できないことはあります。
ビジネスでもスポーツの世界でも「競争相手」というものがいますし、
状況も変化していきます。
そこで、
たとえゴールに到達しなかったとしても、その過程で得られるものは何か?
どんな経験ができるか?
どんな人と出会えるか?
どんな新しいチャンスが生まれるか?
という問いを立てると、ゴールの意味や、
そこへ向かう道筋に新たな視点や視野が生まれるわけです。
能力や恩恵とは、例えば、
技術力、精神力、忍耐力、持久力、学習能力、判断力、理解力、
受容性、コミュニケーション、言語化能力、リーダーシップ、思いやり、
団結力、若手育成、自信、共感力、感動、思い出、仲間、支援者、等、
様々です。
この考えのもと、スポーツ指導者の立場では、以下の様にP/PCバランスが
使われていることは珍しくありません。
年間を通じ、公式戦であれ練習試合であれ、
それぞれ、
P視点の試合=「あらゆる手段を考え、絶対勝つ」か、
PC視点の試合=「この試合を通じて、チームや選手の能力が
向上することを狙う」か、
を予め方針を決めて試合に臨んでいるのです。
この二つは両立し得ますから、
試合にも勝つし、チームや選手が成功することもあります。
また、試合に勝たなくていいと考えている指導者はいないと
思いますし、試合の進行状況によってはPからPCへ
重心移動が起きることもあります。
しかし、監督として予め試合の位置づけをこの視点で考えることで、
試合前の選手のセレクション、試合時の采配や選手起用も
違ってくるわけですね。
~~ 高校球児が持ち帰るPCは? ~~
甲子園大会では、大差がつけられた試合の終盤、
3年生が代打に起用される姿をみることが少なくありません。
野球は筋書きのないドラマ。
負けが決まったわけではないのですが、このままでいくと、
今日の試合が甲子園での最後の試合になる可能性が
非常に高い状況です。
試合の状況によって、監督の視点が、
PからPCへ移行した結果だと思います。
そして、この代打の3年生。
おそらく青春を野球一筋に打ち込んできた若者が
甲子園の打席に立った経験から得られるものは、
能力とか技術云々ではなく、これからの長い人生で
いつでも自分を励ますエネルギー源になるのだと思います。
監督が教育者であれば当然の判断かもしれません。
同じ高校野球でも1992年の甲子園大会で、
松井秀喜選手(星稜高校⇒読売巨人軍⇒MLB)
を全打席敬遠して勝利した明徳義塾高校の野球はP視点での
結果と言えるでしょう。
極端にPを求めた姿勢は、賛否両論を呼ぶ当時社会問題
にもなりましたね。
(記憶に無い方は、Wikipedia「松井5打席連続敬遠」で詳細を
追うことが出来ます。)
~~ 中日 落合監督にみるP/PCバランス ~~
高校野球からプロ野球の世界に眼を転じてみたいと思います。
「P」の持つ意味は、スポーツではプロとアマチュアの世界では
当然違ってきます。
「結果を出すのがプロ」 ですから。
もちろん、このセリフはビジネスの世界でも言えることですね。
皆、給料もらっているプロですから。
社会人駆け出しの頃は厳しい上司から、
「同好会でやってることじゃねぇぞ!」と叱咤されたことはよくありました。
そして、特に野球は、このP/PCバランスの難しさをリアルタイムに、
分かり易く伝えてくれる教材になることが多いと思っています。
2007年の日本シリーズ第5戦、中日VS日本ハム。
中日が優勝に大手をかけたこの試合で先発の山井投手は
8回まで一人もランナーを出さないパーフェクトピッチングで
日本ハムを抑えます。
日本シリーズでの完全試合は、プロ野球の歴史の中で
誰も成しえていません。
スコアは1-0で中日のリードは僅かに1点ながら、
9回の大記録達成に、期待がかかり球場の興奮は高まります。
しかし、9回に中日落合監督はピッチャー交代を告げ、
山井投手に代えて、抑えの切り札、岩瀬投手をマウンドに送るのです。
この決断には、観客はもちろん、中日コーチ陣、
交代を告げられたベテラン球審も驚愕しました。
しかし、前人未到の記録達成のチャンスを逃した山井投手も、
これ以上ないプレッシャーの中で、最終回マウンドに上がった岩瀬投手も
監督の指示に従い、淡々と振舞い試合を進めました。
結果、この試合で優勝決めた中日ドラゴンズは
日本一の胴上げを地元名古屋のファンに披露することになります。
この「消えた完全試合」のエピソードは、その後様々な
メディアで取り上げられ、勝つことへのこだわりと、
それを自分流で実践する、落合監督を象徴するものとして
紹介されていますが、
落合監督が決して「Pだけ」の人ではないこともまた
周知の事実です。
現役時代から、選手の個を伸ばし、長所に注目し、
自助努力を促すアドバイスで選手の育成を支援する姿勢は、
「落合効果」とも言われていました。
2001年の著書「コーチング ~言葉と信念の魔術~(ダイアモンド社)」
では、正にPCを上げる言葉の数々が紹介されています。
それでも、中日の監督就任時の挨拶では、
「勝負事ですから、負けるつもりではやりません。
まぁ、選手たちには泣いてもらうことになるでしょう」
と述べています。
この絶妙なP/PCバランスを監督として整えていたことが、
2004年から2011年の中日監督在籍中、全ての年で
Aクラス(リーグ上位3位)入り、4度のリーグ優勝、
1度の日本シリーズ優勝を果たした理由のひとつだと思うのです。
~~ P、PCの考え方をチームで共有する ~~
高校野球の監督でも、落合監督でも、
そして多くのビジネスマネジメントやスポーツ指導者で、
P/PCバランスをとるのが上手い人は、おそらく、
自身が考えるPやPCを分かり易く言語化して
チームに共有しているのではないでしょうか。
そして、その考え方をブラさないことも大切です。
チームとしてのゴールと、チームメンバーの成長を
自分はこんな風に考えている、と。
P/PCバランスはマネジメントやスポーツ指導者の
テーマと申し上げましたが、
実際は、
Pは結果責任として、マネジメントや指導者側に、
PCは成長責任として部下や選手側に、依存することが多いのです。
ですから、チームメンバーが組織の「P」を理解した上で、
そのゴールに向かう中で自分がどの様な能力で貢献できるか?
どの様な成長機会があるか?
を考えることで、優れたチームパフォーマンスが発揮されると考えます。
その共有の機会となるのが、「オリエンテーション」ですが、
これは次週のテーマとし、今日のお話はここまでといたします。
過去のP/PCバランスのテーマでは、
以下のブログをご参照ください。
- 2022年4月15日発行
「佐々木朗稀投手の登板回避問題と四半期開示義務廃止の共通テーマ」
https://dreampl.com/HP/?p=81
- 2022年7月8日発行
「再び、P/PCバランスについて」
https://dreampl.com/HP/?p=363