前回のテーマ、「トップダウン」について、何人かの方々からコメントや感想を頂きました。
テーマの話題性が高かったことに正直驚いた次第です。
そこで、今回は関連するテーマとして「フォロワーシップ」について考えてみたいと思います。

実はこのメルマガの第一号(2022年の2月24日配信)のテーマが「フォロワーシップ」でした。
トップダウンがネガティブなイメージを生んだり、意図しない方向へ進まないためにも、ここで再度その大切さについてお話してみたいと思います。(一部の内容は再掲となります)

~~ フォロワーシップとは? ~~

フォロワーシップとはなんぞや?というお話から入りましょう。

フォロワーは「信奉者」「追随者」「部下」「模倣者」の意味がありますから、「フォロワーシップ」は単にリーダーに従う人の心構えの様に捉えられかねません。
SNSでのフォロワーは「ファン」「追っかけ」的な意味もありますね。

しかし、リーダーシップと共に語られる「フォロワーシップ」は少々違います。
リーダーの成長の鍵を握るのが、共に働く「フォロワー」だと言われています。
優れたフォロワーシップはリーダーに気づきや学びを与え、リーダーのアイデアや言動を良い方向に導きますし、時にはリーダーが独善、独裁に陥る危機を防ぐからです。
従って、「フォロワーシップはリーダーシップの一部である」と説いている人も少なくありません。

先ず、フォロワーとは「役割」であって、「役職」や「立場」ではありません。ですから複数人いてもいいのです。そして、必ずしも「ナンバー2」などと称されている人に限定されるものでもありません。
チームが優秀なフォロワーで構成されていたら、チームパフォーマンスやチームのエネルギーは相当高いレベルになるでしょう。

かつて私はチームメンバーに向けて、フォロワーシップについて以下の様な説明をしてきました。

  • あなたはチームメンバーとして、上司/リーダーに対してより良い方法や考え方を求めて、意見を述べる「義務」がある
  • その意見はお互いの利益(Win-Win)、組織への貢献と、自らの主体性に基づいたものである。
  • 意見は必ずしも受け入れられないことは理解しておく。
  • 最終的な意思決定は上司/リーダーが責任をもつ。メンバーはその実行に責任をもつ。

以上の説明は同時に、チームメンバーへのリクエストでした。私に対してのフォロワーシップを是非発揮して欲しい、と。つまり、
「チームのためになる、会社のためになる、と思ったら遠慮なく提案せよ」
「チームのためにならない、これはリスクがある、障害の種になる、と思ったら遠慮なくそれを指摘せよ」
「私はそうした声にいつも耳を傾け、言ってきたメンバーの勇気を尊重することを約束します」
ということですね。

チームが良い仕事をするために、
チームがその目標を達成するために、
チームが成長するために、
メンバーのフォロワーシップが不可欠であることを全員が理解し、行動
してくれたらリーダーはどれだけ助かるでしょう。

例をあげましょう。

「○○リーダー、今朝発表された今月の勤務シフトですが、繁忙期への対応とはいえ、あの内容だとメンバーにかなりの無理を強いることになります。他チームからの応援を依頼するなどの方法は考えられませんか?」

というのはフォロワーシップに基づく意見です。自分ではなくチーム視点、批判ではなくアイデアを提示していますね。

それでも結果として、「厳しいけど、この勤務シフトで行くのだ」との意思決定が下されれば、チームはそれに従います。そして、厳しい状況を乗り切った後に、「今月の目標を達成したら、皆で慰労の飲み会イベントやりませんか?」と提案するのもフォロワーシップの表れです。
チームに課せられたミッションは厳しくても仕事としてしっかり遂行するが、一方でモチベーションについても考えた、組織にとって有益な提案です。

こうした提案を受けたリーダーは、リソース(他チームの応援)について考えたり、慰労飲み会の経費予算やら、その他諸々のアイデアに頭を使い始めなければならないわけです。
結果としてリーダー自身の成長機会になります。

他チームの協力やら、飲み会の経費やら、下からのリクエストがいつもそう簡単に通るわけではありません。優秀なフォロワーはその限界も理解しています。

しかし、何はともあれ意見を聞いて考えてくれたリーダーに尊敬の思いを持つでしょう。
そして、建設的な意見を上げ続けるということは、自分自身がリーダーになるための学びの機会となっているはずです。
こうした一連の「前向きの連鎖反応」を起こすのが、フォロワーシップの役割であり、
リーダーシップとフォロワーシップのバランスがとれているチームは、メンバーに成長の機会をもたらします。

~~ フォロワーシップが無かったら ~~

こう考えると、フォロワーシップは前回お話したトップダウンとボトムアップの間に位置して、適切なコミュニケーションの下に機能する役割があるとも言えます。
もし、フォロワーシップという考えが皆無で、強いリーダーシップだけだが働く状況が続くと、組織、チームはどの様なリスクに直面するでしょうか?

1.コミュニケーションの劣化
フォロワーシップが発揮できない、育たない組織では、チームメンバーはアイデアや意見を自由に発言することを躊躇します。心理的安全性が無い状態とも言えます。
結果として重要な問題や情報がリーダーの耳に届かず、事態を悪化させたり、対応が後手後手になるリスクが生じます。

2.意志決定の集中
意思決定がリーダーをはじめとする一部の人々に限定され、多様なアイディアや意見が見過ごされる状況が生じます。創造性や革新性が損なわれ、組織、チームの適応能力が低下する恐れがあり、またメンバーの創造性へのモチベーションも失われていきます。

3.エンゲージメント(組織への信頼や愛着心)の低下
フォロワーシップが発揮できない組織では、チームメンバーは自らの意見に価値が無いと感じ、モチベーションやエンゲージメントが低下します。これは長期的に組織、チーム全体のパフォーマンスに悪影響を与えていきます。

4.チームの成長と学習の機会の損失
上述の事例の様に、優れたフォロワーシップは、リーダーに提案やフィードバックを提供し、それはリーダーとメンバー双方に成長を促す機会となります。この機会が失われるとリーダーも含めたメンバー、ひいてはチームの成長が阻害されることになります。

5.責任の過度な集中
リーダーに責任と意思決定の全てが集中することで、リーダーが心身ともに過大な負担をかかえることになり、リーダーに「燃え尽き現象」が起きるリスクが生じます。

等々、どれもボディーブローの様にジワジワと、しかも間違いなく悪影響が広がりそうです。
特に1.2.3.は「悪いトップダウン」になりそうですね。

上述の、厳しい勤務シフトへの提案の状況で、フォロワーシップが無いチームであれば、

「今月の勤務シフト、ありゃ相当大変だぞ。」
「気合で乗り切れってことか・・・」
「いつもながら上からの命令だ。黙ってやるしかないか・・・。やれやれ・・・」
《後日・・・》
「みんなよくやったよなぁ。こういう時こそリーダーから飲み会の提案とかあってもいいよなぁ。」
「ホント、気が効かないというか、人の努力に無頓着というか・・・」
と、指示命令に対して諦め、提案をせずに愚痴、という組織文化になってしまう、ということです。

~~ フォロワーシップを育むには ~~

こうしたフォロワーシップをチーム内に広めて、組織文化とするには、なによりもリーダーとメンバーの関係性の質を良くすることが第一です。関係性の質を上げる方法としては、
心理的安全性の確保、フィードバック技術の向上、適切な承認行動、傾聴の心がけ、等々、
コミュケーションにかかわるもの多いですが、他にも大切なことがあります。
それは、組織の目的や価値観を明確にし、それが組織、チームに共有されていることです。

リーダーのアイデア、方針に対して、フォロワーシップをもって対峙する時、その勇気を与えてくれるのは、
目的(なぜ私たちはこの仕事をしているのか?私は仕事を通じてどの様な成長を成し遂げたいのか?)
価値観(私たちにとって大切なものは何か?私たちは世の中にどの様な価値を提供したいのか?)

だと思うのです。

「慰労飲み会の提案をするのに目的や価値観とは大袈裟な」と思うかもしれません。
しかし、こうした高い視点から自分やチーム、そしてその関係性を俯瞰してみる習慣をつけることは大切です。
「激務によってメンバーが疲弊していたらチームのパフォーマンスどころかアウトプットの質も悪くなる。」
「笑顔が無いチームでは、率直なコミュニケーションがとれない。ここは楽しい場を設けてメリハリをつけなければ。」
こうした思いは、目的や価値観という視点からそう遠い距離にあるものではないと思います。

そして、こうした目的や価値視点での大局観をもつと、
「あれっ? リーダーあんなことやってるけど、そもそもリーダーがやるべき仕事?」
「それ、私にもできるでしょ。」という発想も生まれてきます。


「それ私にやらせてください。」というメンバーが出てくることもフォロワーシップが育まれているという目に見えた成果だと思います。

そして何よりも、フォロワーシップが育つ要因は、リーダーシップの質です。
リーダー自身が人として信頼されている、ということですね。リーダーを自分のロールモデルに定めた人は、自然に優れたフォロワーとなって、リーダーと良い関係性を築き、リーダーの成長を助けてくれるはずです。

今日のお話しはここまでです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

株式会社ドリームパイプライン 代表取締役   1980年、新卒で日本NCR株式会社にてキャリアをスタートし、以来一貫して外資系IT企業に勤務。   営業、営業企画、マーケティング、製品開発、製品管理、市場開発、米国本社勤務、事業部長、等の領域でマネジメント職を経験。   2001年、日本NCRを退職後、米国、ドイツ等を本社とする大手IT企業数社の日本法人にて要職を歴任。    2013年より、組織の人材育成、組織活性化のためにコーチングを学び始め、プロフェッショナルコーチ認定資格を取得。修得したコーチングスキルを多様な価値観が求められる外資系IT企業におけるマネジメントに活用しながら(社)日本スポーツコーチング協会の認定コーチとして、高校、大学のスポーツ指導者へのコーチング活動を実施。   2015年から、米国のスタートアップ企業の2社の日本代表を歴任し2021年12月退任。人材育成支援を目的とし、株式会社ドリームパイプライン設立。 著書 『ニッポンIT株式会社』   https://www.amazon.co.jp/dp/B09SGXYHQ5/    Amazon Kindle本 3部門で売上一位獲得    「実践経営・リーダーシップ」部門、「ビジネスコミュニケーション」部門、「職場文化」部門

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