リーダーはメタファーが上手

ドジャースの優勝で幕を閉じたワールドシリーズ、DeNAが王手をかけた日本シリーズと、プロ野球の放送、ニュースに事欠かない1週間でした。

自論ですが、野球はその試合内容、監督の選手起用法、育成法、戦略、選手個人のエピソードなどが、ビジネスの場で例え話として一番頻繁に引用されるスポーツだと思っています。

あの選手の育て方は素晴らしい、モチベーションの上げ方に見習うところがある、スタッフが良くまとまっていることが強さの原因だ、等々・・・

という目で野球を観ることが癖になっているので、今週は、例え話、比喩というテーマが頭に浮かび、リーダーにとって大切なコミュニケーション手段である、メタファー(metaphor:隠喩と訳されます)について考えてみました。

~~ メタファーの効果 ~~

メタファーについて、簡単に説明いたします。
あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、いわゆる比喩、ものの例え方のひとつの手法です。
比喩には、メタファーの他に、シミリ(simile:直喩)、擬人法などがあります。
直喩は「〇〇は××の様だ」、と具体的に「ようだ」「みたいに」「まるで」などの表現で直接比較します。
一方、メタファー(隠喩)は、直喩のような比較後を使わずに、別のものとして例える表現です。

例えば、
直喩は、「彼女の心は氷のように冷たい」
隠喩は、「彼女の心は氷だ」
と、なるわけですね。

メタファーは、リーダーが組織の方針やあり方をチームに示す時に非常に有効と言われていますが、
その理由は以下の様なものです。

  • 抽象的な概念を具体化する
    組織の方針や理念は抽象的に表現されがちです。特に新しいビジョンや変革を伝える際には理解しにくいことがありますね。
    メタファーを使うことで、抽象的な概念を具体的で分かりやすい形で伝えることができ、チームメンバの理解を深める助けになります。
  • 感情に訴える
    メタファーには感情に働きかける力があります。人はストーリーや比喩に対して感情的なつながりを持ちやすいので、メタファーを使うことでメッセージが心に響き、行動を促す効果があります。
  • 記憶に残りやすい
    メタファーは通常の言葉よりも記憶に残りやすい、という特徴があります。リーダーが方針を伝える際、メタファーを用いることでメッセージが長く人々の心に留まり、日々の行動に反映されやすくなります。
  • 共通の理解を促し、目的意識を醸成する
    メタファーによってチーム全体に共通のイメージや理解を持たせることができます。組織を「船」に例えるケースはよくありますが、これは全員が「同じ方向に向かって進むのだ」というメッセージが共有しやすくなる例です。

以上の様に効果は様々です。

例えば組織が変革期にある時、「荒波を乗り越えて大きな航海に出る船」とメタファーを使うと、チーム全員の覚悟やモチベーションを高揚しながら、変化への不安も共有しつつ、目的地に向かうために全員が協力する必要性が伝わります。

このように、メタファーはチームメンバーに共感や理解を生み出し、行動を促す力を持っています。

~~ 野球型チームか、サッカー型チームか ~~

私自身、いまだに記憶に残るメタファーがありますので、事例としてご紹介いたします。

務めていたのは外資系IT会社。
もう20年以上前のことですが、その会社にとって大きな組織改革を迎え、全社員がリーダーシップの重要性を理解し、それを発揮することが求められた時です。

使われたメタファーは、「これからすべてのチーム運営は野球ではなくサッカーになる」でした。

野球型のチームとは、リーダーからの指示を受けて各メンバーがその指示に従いながら成果を出す、
指示命令型のチームを意味します。このモデルでは、役割が明確であり、各メンバーは自分のポジションでの役割に専念して仕事を進めます。

一方、サッカー型のチームとは、個々のメンバーが瞬時に状況を判断し、自ら行動を起こすことで成果を上げる、主体性のあるチームです。このモデルでは、各メンバーが全体の動きを理解しつつ、柔軟に役割を変えながら目的達成を目指すことになります。

経営者の願いは、この変革期に社員が主体性をもって働き、成長への礎にしたいということでした。

「いちいち次のプレイに指示を出す監督はもういませんよ。」
「ボールが来たら、あなたの判断で動くのだよ。」

というメッセージです。

そして、どんな職位にいる社員でもリーダーシップを発揮することを求めました。会社の成長に貢献するアイデアであれば、イノベーションに繋がるものであれば、遠慮なく提案し挑戦する姿勢が求められました。

とてもわかり易く、イメージし易く、記憶に残り、人にも説明できる、優れたメタファーだったと今でも思っています。

補足説明になりますが、野球型が悪くて、サッカー型が良い、という話ではありません。それぞれに特長があります。
縦割り文化が強い組織、他部門との協力意識が企画、多い指示待ち社員、課題を自分事(ごと)にしない他責の意識、等が組織改革の障害であることに気づき、これを打破していくためのリーダーシップの育成であり、その方向性をわかり易く説くためのメタファーとして、サッカーが引用されたのです。

以下は余談ですが、

野球型の組織にも長所はあります。明確な役割と指示が必要な組織があるからです。
各チームメンバーが専門の役割を持ち、何をすべきかがはっきりしています。
リーダー(監督)が全体の戦略を考え、各メンバーはそれに従うため、仕事は効率的に進みます。
細かな指示により、業務の正確さが保たれ、リーダーの視点から全体をコントロールすることで、
プロセスやアウトプットの品質を管理しやすくなります。

同様に、サッカー型の組織には短所もあります。
メンバーが個々に判断するため、一貫性に欠ける場合があり、意見の衝突や方向性のズレが生じることがあります。これをうまく調整するためには、共通のビジョンや価値観を上位に掲げることが必要です。
組織的に柔軟な対応ができるということは、役割の曖昧さに繋がることもあります。それは、責任が曖昧になることに繋がり、パフォーマンスが低下するリスクがあります。

私が経験した前述の例では、こうした短所があることも織り込んで、リーダーシップの育成、そして失敗を咎めないチャレンジが奨励されていたのだと思います。

~~ メタファーを活用してみましょう ~~

さて、みなさんはどの様なメタファーを思いつきますか?

野球やサッカーは、それらに全く興味の無い人には効果の無いメタファーですが、それぞれの競技の特長や、そのメタファーが届けたいメッセージを説明しようと思えば数分で済むはずです。
そのくらいシンプルでなくてはならないということですな。

チーム方針を示すメタファーの例を考えてみましょう。

  • 私たちのチームはオーケストラ
    各メンバーは楽器を演奏するプレイヤーであり、リーダーは指揮者です。各楽器のプレイヤーには独自の役割があり、それぞれが異なる音を出しますが、全体が調和することで美しい音楽を生み出します。
    各メンバーが専門性を持ちながら、一つの目的(演奏)に向けて調和して働くことを示すメタファーです。個々の力だけでなく、全体としての一貫したビジョンや方向性が重要であることを伝えています。
  • 私たちのチームは登山隊
    一つの山の頂上を目指して登る登山隊というメタファーです。全員が山頂を目指すための共通の目標を持っており、リーダーは道を示すガイドです。ただし、登るためにはそれぞれの体力やスキルに応じた役割分担やサポートが必要です。
    目標に向かうために全員が協力し、相互に助け合う姿勢が重要であることを強調しています。また、途中で予期せぬ困難に出会う可能性があり、それに対して柔軟に、果敢に対応し乗り越えていく覚悟も求めています。
  • 私たちのチームは庭園
    リーダーは庭師であり、メンバーは様々な植物です。植物はそれぞれ異なる特性や成長速度を持っています。リーダーはその特性を理解し、必要なケア(水、光、剪定など)を行い、各植物を適切に育て、庭全体が健康で美しく保たれる様にします。
    メンバーそれぞれの成長と個性に着目し、チーム全体のバランスを保つことの重要性を伝える姿勢を示しています。
    過去のブログでご紹介した「サーバントリーダーシップ」の発揮が感じられますね

リーダーがこれらのメタファーを使うことで、チームが目指すべき方向性や理想のあり方を具体的かつ感覚的に伝えることができますが、状況に応じて適切に選ぶことが大切です。

ともすると、言葉遊びになりかねません。

~~ メタファーは意志を伝える手段のひとつ ~~

メタファーはあなたの考えを伝えるためのコミュニケーション手段のひとつです。
ですから、メタファーを呪文の様に唱えていれば十分というわけではありません。
リーダーには、チームメンバーやそれを取巻く人々に伝えたい何か、理解してもらいたい何かがあり、メタファーはそれを効果的に伝えるひとつの手段に過ぎないからです。

上述の私の経験では、経営者の伝えたかったことは階層、部門を超えたリーダーシップの発揮であり
主体性の向上です。チームへのスピーチでいつも強調されていた言葉(いわゆる耳タコです)は、
「リーダー」であり「リーダーシップ」でした。

リーダーとはどういう発想、行動をする人なのか? リーダーシップはどの様な状況で発揮されるものなのか?発揮すべきものなのか?何故それが大切なのか?という話が中心にありました。
そして、それをわかり易くするために、「サッカー型チームになりましょう」というメタファーが使われるわけです。

ChatGPTに「我々のチームの理想と方針は〇〇〇〇です。これを効果的に伝えるためにメタファーを10個つくってください」と問えば、瞬く間に作ってくれます。

しかし、肝心なのは、その理想や方針が何故重要なのか(Why)、そのためにチームは何を(What)、どの様に(How)推進していくのかを明確に伝えることです。

話の中心はあくまで「本当に伝えたいこと」。
メタファーはそのメッセージを効果的にするために、力を発揮するはずです。

今日のお話はここまです。

お読みいただきありがとうございました。

株式会社ドリームパイプライン 代表取締役   1980年、新卒で日本NCR株式会社にてキャリアをスタートし、以来一貫して外資系IT企業に勤務。   営業、営業企画、マーケティング、製品開発、製品管理、市場開発、米国本社勤務、事業部長、等の領域でマネジメント職を経験。   2001年、日本NCRを退職後、米国、ドイツ等を本社とする大手IT企業数社の日本法人にて要職を歴任。    2013年より、組織の人材育成、組織活性化のためにコーチングを学び始め、プロフェッショナルコーチ認定資格を取得。修得したコーチングスキルを多様な価値観が求められる外資系IT企業におけるマネジメントに活用しながら(社)日本スポーツコーチング協会の認定コーチとして、高校、大学のスポーツ指導者へのコーチング活動を実施。   2015年から、米国のスタートアップ企業の2社の日本代表を歴任し2021年12月退任。人材育成支援を目的とし、株式会社ドリームパイプライン設立。 著書 『ニッポンIT株式会社』   https://www.amazon.co.jp/dp/B09SGXYHQ5/    Amazon Kindle本 3部門で売上一位獲得    「実践経営・リーダーシップ」部門、「ビジネスコミュニケーション」部門、「職場文化」部門

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


コメントする