ラディカルキャンダーって何だ?

前回のブログでは「ネガティブフィードバック」について取り上げ、建設的な指摘を行うことの重要性や方法論について解説しました。成長に繋がる「ギフト」としてとらえることが大切、ということでしたね。

今回は、その続編として「ラディカルキャンダー(Radical Candor)」に焦点を当て、これがどのような背景から生まれたのか、ネガティブフィードバックとの違い、そして日本の企業文化に適用する際のポイントについて考えてみたいと思います。

~~ ラディカルキャンダーとは何か? ~~

ラディカルキャンダーは、シリコンバレーでエグゼクティブコーチを務めたキム・スコットが提唱したリーダーシップとコミュニケーションのフレームワークです。その核心は、「個人を気遣う(Care Personally)」と「率直に指摘する(Challenge Directly)」の両方を同時に行うことにあります。

かつて、「心理的安全性」や「1on1ミーティング」が、シリコンバレー発!と謳って、組織パフォーマンスを上げるキーワードとして紹介されましたが、ラディカルキャンダーもシリコンバレー発とのことです。

シリコンバレー礼賛も悪いことではないのですが、今回ご紹介するラディカルキャンダーは、日本企業の組織文化とかなりギャップが大きい考え方かと思います。

まぁ、取り入れる有効性を感じない考え方なら、放っておけばいいだけの話ですが・・・

ラディカルキャンダーのアプローチは、単なる指摘や批評を超え、相手の成長を本気で願いながら、率直かつ具体的なフィードバックを提供することを目指します。これにより、職場における信頼関係を強化し、パフォーマンスの向上を促すことができます。

昭和のオヤジ管理職は言うかもしれません。「部下の成長を本気で願っているから、率直に叱責し、怒鳴り、時に鉄拳(今や刑事罰ですが)で指導し、そして個人を気遣うから「帰りに赤ちょうちんで一杯おごる」。この飴とムチ、叱責の後のフォローの妙で、信頼関係ができるんだよ。」と。

この「叩いてから撫でる」ということとは違うんですね。お話を進めましょう。

~~ ラディカルキャンダーの背景 ~~

ラディカルキャンダーが注目を集めた背景には、特に以下のような要因があると言われています。

シリコンバレーの文化的土壌

シリコンバレーでは、革新とスピードが求められる中で、遠回しな表現や曖昧な指示は生産性を阻害する要因とされてきました。明確で率直なコミュニケーションが求められる環境が、ラディカルキャンダーの誕生を後押ししました。「空気を読む」とか「忖度」に使われるエネルギーは無いということです。

多様性の増加

異文化間のコミュニケーションが日常化する中で、誤解や摩擦を防ぎつつ、生産的な対話を行う方法が求められていました。

心理的安全性への注目

Googleの研究で、チームの成功要因として「心理的安全性」が最も重要であることが示されましたが、ラディカルキャンダーは、心理的安全性を高めながら率直な対話を可能にする手法として注目されました。

~~ ネガティブフィードバックとの相違点 ~~

以前にお話しした、ネガティブフィードバックとラディカルキャンダーと一見似ているようで根本的に異なるアプローチです。

気遣いの有無

ネガティブフィードバックは、単に改善を促すための指摘に終始することが多いのに対し、ラディカルキャンダーは「個人を気遣う」という要素を重要視します。

対話の双方向性

ネガティブフィードバックは一方向的に伝えられることが多いですが、ラディカルキャンダーは相手の意見を聞き、共に成長を目指す双方向的な対話を重視します。

フィードバックのトーン

ラディカルキャンダーでは、指摘が率直であると同時に、冷たさや厳しさを避け、相手に「気遣われている」と感じさせるトーンが重要です。これが苦手な方も少なく無いと思います。意識して身に着けていくことが必要になりますね。

以上の内容だと、昨今注目されているコミュニケーション技術の良いところを集めた効果的な方法だという気がしてきますね。

しかし、職位や立場を超えて率直にモノを言い合うフィードバック文化すら根付いていない日本の組織文化で、いきなりラディカルキャンダーを広げようとするのはかなりチャレンジだと思うのです。

Radical=徹底的な

Candor=本音、率直さ

に対して、日本の組織文化は「本音」を下図の様な位置に埋めていることが多いからです。

~~ 日本企業文化への展開:課題と対応策 ~~

ですので、ラディカルキャンダーを、その有効性に期待して日本企業文化に適用するのであれば、特有の課題を理解しておくことと、実践の工夫が必要と考えます。

1. 日本の企業文化へ展開する際の課題

暗黙の了解を重視する文化

日本では、言葉にしなくても察する文化が根付いており、率直な意見交換が敬遠されがちです。

上下関係への意識

階層構造が強い職場では、部下が上司に率直な意見を述べることに抵抗があることは少なくないでしょう。

「和」を乱すことへの忌避感

チームの調和を重視するあまり、フィードバックを控える傾向があります。他人に嫌な思いをさせやしないか?人間関係が悪くならないか?敵を作らないか?

2. 適用するための対応策

心理的安全性の醸成

上司やリーダーが率先して自己開示を行い、率直な意見交換を歓迎する姿勢を示すことが重要です。

先ずはここからですね。

フィードバックの練習

ワークショップやロールプレイングを活用して、率直なフィードバックを行う練習を取り入れることで、社員が自信を持ってコミュニケーションできる環境作りが大切です。コミュケーションは技術なので、練習によって修得できます。こうした練習に時間を割くことを奨励するマネジメントが必要です。例えば、以下の様な技術があります。

~~ 「気遣い」を言語化する技術 ~~

気遣いを言語化するために、フィードバックを行う際には、以下の「サンドイッチフィードバック」や「DESC法」の手法を活用すると効果的です:

1. サンドイッチ フィードバック

– 最初に相手の良い点や努力を具体的に伝える
– 次に改善してほしい点を建設的に説明する
– 最後に再度ポジティブな期待や励ましの言葉で締めくくる

という具合に、率直に伝えたい改善点などを、前後の、前向き、褒め、ポジティブな言葉でサンドイッチする方法です。

具体的な例:

「新入社員へのフィードバック」

– 最初のポジティブ:「ねぇ、先週のプレゼン資料見せてもらったんだけど、データの分析がすごく丁寧でよかったよ!グラフも分かりやすくて効果的だったね。」

– 改善点:「ただね、説明のスピードがちょっと速かったかな。ゆっくり話してもらえると、みんなももっと理解しやすいと思うんだ。」

– 締めのポジティブ:「分析力もプレゼンのスキルも、着実に成長してるのが見てて分かるよ。この点を意識してくれたら、もっともっと良い発表になると思うな!」

「同僚へのフィードバック」

– 最初のポジティブ:「いつもプロジェクトの提案、現実的で実現できそうなものばかりで、本当に助かってるよ!」

– 改善点:「ただね、締め切り間際まで一人で頑張りすぎちゃってる気がするんだ。もう少し早めに声かけてくれたら、みんなで手伝えるのにな。」

– 締めのポジティブ:「君の仕事の質の高さは、みんな認めてるから。チームで協力すれば、もっともっと良い成果が出せると思うんだ!」

2. DESC

– Describe(描写): 具体的な状況や行動を客観的に説明
– Express(表現): その状況があなたに与える影響を「私は」を主語に表現
– Specify(特定): 望ましい対応や改善案を具体的に提案
– Consequence(結果): 改善後に得られる良い結果を共有

少々ややこしいですね。具体例でご説明します。

具体的な会話例:

上司から部下へのフィードバック例:

D(描写):「この前のプレゼンの時、お客様からの質問への回答に少し時間がかかってたみたいだね。」
E(表現):「お客様を待たせると、せっかくの提案の印象も下がっちゃうんじゃないかなって思ってね。」
S(特定):「次のプレゼンまでに、想定質問とその答えを一通り用意しておくといいな。必要なら、一緒に考えるよ。」
C(結果):「そういう準備をしておけば、もっと自信を持ってプレゼンできるし、お客様との関係も良くなると思うな。」

同僚間のフィードバック例:

D(描写):「昨日のチーム会議で、他のメンバーが話してる途中に何回か口を挟んじゃってたよね。」
E(表現):「みんなが意見を出しやすい雰囲気を作りたいなって思ってるんで、ちょっと気になってね。」
S(特定):「相手の話が終わるまで聞いて、メモ取っておいてから自分の意見を言うっていうのはどう?」
C(結果):「そうすれば、もっと活発に意見交換できるし、チーム全体のアイデアの質も上がると思うんだ。」

これらの手法を使うことで、相手を傷つけることなく建設的なフィードバックが可能になります。

小さな成功体験を積む

フィードバックがうまくいった例を共有し、社員間で成功体験を積み重ねることで、文化として定着させることができます。

こうしたお話をすると、「コミュニケーションは技術である」「練習によって向上する」ということがご理解頂けると思います。

~~ 実践事例:ラディカルキャンダーがもたらす変化 ~~

最後に具体的なシナリオと成功例を以下に紹介します。

1. 技術部門における事例

ある技術部門では、エンジニア間のコミュニケーションが断片的で、情報の共有不足がプロジェクトの遅延を引き起こしていました。

ラディカルキャンダーのアプローチを導入した結果、チームメンバーが互いに率直な意見を述べる場が設けられる様になりました。

たとえば、週次のミーティングで「あなたのコードレビューはいつも詳細で助かるが、タイムリーに対応してくれるとさらに良い」といったフィードバックが交わされるようになり、結果としてプロジェクトの進行スピードが向上するようになりました。

2. 営業チームでの活用

営業部門で、上司が部下の成果を正当に評価しつつ、改善点を具体的に示すことで、成績が向上した例があります。

例えば、「先月のプレゼンテーションは、顧客のニーズを的確に捉えていた。ただ、次回は導入事例をもう少し強調すると、より説得力が増すだろう」といった指摘です。これによって部下が自信を持ちながらスキルアップを図ることができました。

3. 日本企業での導入事例

ある日本の中小企業では、若手社員が上司に意見を言いにくい状況がありました。ラディカルキャンダーをテーマにしたワークショップを実施し、「相手を気遣いながら率直に話す」方法を練習したところ、若手社員が積極的に意見を出せるようになり、上司との関係が改善。結果として、部署全体のアイデア提案数が前年より30%増加したそうです。

以上、お話した様に、ラディカルキャンダーは、単なるコミュニケーションの技術ではなく、信頼と成長を基盤とした組織文化を構築するための強力なフレームワークです。実際の事例からも分かるように、このアプローチを適切に実践することで、チームのパフォーマンス向上や個人の成長を促すことが可能です。

日本の組織文化で展開することは難しいかもしれませんが、フィードバック文化を育むことに成功したら、さらに一歩進めてみるコミュケーション手法だと考えます。

今日のお話はここまでです。

最後までお読み頂きありがとうございます。

株式会社ドリームパイプライン 代表取締役   1980年、新卒で日本NCR株式会社にてキャリアをスタートし、以来一貫して外資系IT企業に勤務。   営業、営業企画、マーケティング、製品開発、製品管理、市場開発、米国本社勤務、事業部長、等の領域でマネジメント職を経験。   2001年、日本NCRを退職後、米国、ドイツ等を本社とする大手IT企業数社の日本法人にて要職を歴任。    2013年より、組織の人材育成、組織活性化のためにコーチングを学び始め、プロフェッショナルコーチ認定資格を取得。修得したコーチングスキルを多様な価値観が求められる外資系IT企業におけるマネジメントに活用しながら(社)日本スポーツコーチング協会の認定コーチとして、高校、大学のスポーツ指導者へのコーチング活動を実施。   2015年から、米国のスタートアップ企業の2社の日本代表を歴任し2021年12月退任。人材育成支援を目的とし、株式会社ドリームパイプライン設立。 著書 『ニッポンIT株式会社』   https://www.amazon.co.jp/dp/B09SGXYHQ5/    Amazon Kindle本 3部門で売上一位獲得    「実践経営・リーダーシップ」部門、「ビジネスコミュニケーション」部門、「職場文化」部門

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